時限爆弾を3分以内に
ヤミヲミルメ
時限爆弾を3分以内に
時限爆弾を解除するためには三分以内にやらなければならないことがあった。
赤、青、黄色、緑。四本のコードのどれを切ればいいかを突き止めるのだ。
状況を整理しよう。
今から一時間ほど前、とある因習島の権力者の屋敷に電話がかかってきた。
『お嬢様が帰島するフェリーに時限爆弾を仕掛けた。
解除方法を教えてほしければ島祭りを中止しろ』
この時点ですぐに警察に通報するか、せめてお嬢様の護衛役に雇われた探偵、つまり私に連絡してくれればよかったのだが、よそ者をかかわらせたくなかったようでね。
身内を疑い、屋敷の者同士で問い詰め合っているうちに時間が過ぎて、島祭りが始まってしまった。
すると島祭りの会場で不審な手紙が発見された。
それも、四通も。
一通は島外から来た花火師の、花火の点火装置のケースの中から。
便せんにはこの手紙がいたずらではないことを示す文言に続いて『赤を切れ』と書かれていた。
一通は酒屋の倉庫。
見つけたのは酒屋の店主。
島祭りで出す予定の酒樽の裏に貼りつけられていた。
裏というのはつまり、倉庫の壁を向いているほうだね。
内容は花火師が見つけた手紙とほぼ同じ。
一か所だけ違うのは花火師の手紙では赤を切れとあったのが『青を切れ』に変わっている点だ。
もう一通は島祭りの出店のかき氷屋。
高級な氷を島外から取り寄せたことをとなりのわたあめ屋に自慢したらケンカになり……
わたあめ屋に氷のケースをひっくり返された際に、ケースの下から見つかった。
書かれていた言葉は『黄色を切れ』だ。
あー。かき氷に使われる業務用の氷は手間暇かけて特殊な凍らせかたをしていてね、その辺の冷蔵庫で作るものとは異なるんだ。
もう一通は件のわたあめ屋。
わたあめの材料であるザラメ糖の袋に入っていたのが、かき氷屋に袋をぶちまけられたことで出てきた。
書かれていたのは『緑を切れ』だった。
さて、私は今、因習島へ向かうフェリーのエンジンルームにいる。
私の眼の前にある時限爆弾は、燃料のパイプに鎖でくくりつけられており、三分以内に船外へ捨てるのは不可能。
鎖を切るのもパイプを切るのも、火花が散ったらそれでドカンだ。
救命ボートには穴が開けられている。
無線は通じていて、海上保安庁のヘリがこちらへ向かっているが、三分ではとても間に合わない。
犯人が今さら連絡をよこすとも考えがたい。
だからこの爆弾は、私の手で解体するほかにない。
ああ、島で発見された手紙については無線で聞いた。
手がかりはこれだけだが、これだけあればじゅうぶんだ。
犯人が誰かはあとで調べるとして、今は四通の手紙のどれに従えば爆発を止められるかに集中しよう。
爆弾の時限装置を止めるために、切るべきコードは赤か青か黄色か緑か!?
シンキングタイム・スタート!
↓
↓
↓
↓
↓
よし! 切るぞ!
(パチン!)
タイマーが止まった。成功だ。
これで一安心だな。
さて、私が切ったのは何色のコードか?
犯人の目的は、島の祭りを中止させることだった。
しかし祭りは中止にはならなかった。
その結果、どうなったか?
花火師は予定通り花火に点火しようとして、犯人からの手紙を見つけた。
酒屋の店主も予定通り酒樽を祭りの会場に運ぼうとして手紙を見つけた。
かき氷屋とわたあめ屋が手紙を見つけたのはアクシデントによるものだったが……
どの道、祭りが始まれば、ザラメ糖の袋を開けたり、からになった氷のケースを移動させたりして手紙が出てきていただろう。
では、祭りが中止されていればどうなっていたか?
花火師が点火装置のケースを開けることも、酒屋が酒樽を動かすことも、わたあめ屋がザラメ糖の袋を開封することもなかった。
しかし、かき氷屋は違う。
祭りをやらないのに氷を屋台に置きっぱなしにしていたら、いくらケースに入れていても氷は徐々に解けてしまうからね。
犯人は、要求が通って祭りが中止になった場合にかき氷屋が、氷のケースを氷が解けない場所――具体的には島内の業務用冷蔵庫――に移動させるのを見越して、氷のケースの下に手紙を仕込んだんだ。
だから正解は黄色のコードだ!
時限爆弾を3分以内に ヤミヲミルメ @yamiwomirume
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