その『時』にいる君に 【KAC20241】

KKモントレイユ

第1話 占い師

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。


 私には忘れられない思いがある。

 大学時代ずっと好きだった佐織に気持ちを伝えることができないまま卒業してしまった。


 大学を卒業して数年経ったある日、偶然、彼女に街で出会い食事をした。その日のことを今でも覚えている。


 彼女は学生時代の同級生マサトを今でも好きだと言った。

 今度、気持ちを伝えると話した。


 私は「きっとうまくいくよ」と言って駅で別れた。

 それ以来、彼女とは会っていない。噂では彼女はマサトと結婚して数年後に別れたそうだ。

 その後の行方はわからない。


 仕事帰りの駅前で小さなテーブルとイスを構えて占いをしている女性がいる。

 通り過ぎようとしたとき彼女と目が合った。

「何かお悩みのようですね。座ってください」

 疲れていた私は女性に言われるまま座ってしまった。

「あなたの戻りたい『とき』に三分だけ戻らせてあげます」

「え? 占いではないんですか」

「三分」

 女性はそう言って、私を見つめた。


 私は咄嗟に佐織と別れた『時』を口にした。


 まるで眩暈めまいのような感覚……


「大丈夫?」

 気が付くと駅のベンチだった。横に佐織がいる。


「え……」

「すごく疲れてるみたいだけど」

「ごめん」


 本当に過去に戻ったのか……


 そうだ、時間がない。

 私はこの状況を驚くより、今するべきことは、あの時伝えられなかった気持ちを彼女に伝えることだと思った。


「佐織ちゃん、君に伝えたいことがあるんだ」


「なに?」


「僕は佐織ちゃんが好きだ。きっと幸せにする。だから、僕とつきあって……」


「突然ね」

 少しの沈黙が流れた。


「ごめんなさい。さっきも言ったけど、私、好きな人がいるの」


 僕は頷きながら微笑んだ。

「ありがとう」


「え?」

「うん。いいんだ。これで」


「ごめんなさい。電車来たから」

 電車に乗り閉まる扉越しに手を振る彼女……


 僕の頬を一筋の涙がつたう。



 気が付くと占いの女性が目の前にいた。


 彼女は何も言わずに穏やかな表情で微笑み去って行った。

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