提出三分前

生來 哲学

レポートと私とバッファロー

 私には三分以内に終わらせなければならないことがある。

 無論、レポートだ。

 そもそも論として――。

「あ、バッファローだ」

「おーい、逃げろ」

「分かってるっての」

 外から聞こえてくる声に私はため息をついてた。

 すべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れである。

 皆も知っての通り、かのバッファローの群れは千年前、平安京に現れた百鬼夜行が由来とされる。数多の高名な陰陽師達が挑むもすべて返り討ちにされてしまった。

 その結果、当時の帝である花山天皇はかのように言ったそうである。

「放っておけ。あれは都に吹くそよ風に過ぎぬ。強風が吹いたのなら、物陰に隠れるが世の道理である。風を気にしていは政も出来ぬ」

 かくて百鬼夜行の事件は解決した。

「おやおや、今日も風が強いですなぁ」

 喫茶店で茶をしばく貴婦人方が外で爆走するバッファローの群れを見ながら笑い合う。こんな光景、千年前からある日常に過ぎないのだ。

 おかげで京都ではバスも電車もない。

 花山天皇の先例に従い――ではなく作ってもすべて破壊されるからである。京都には三階建て以上の建物を規制する条例があるが、あれも当然高い建物から順にバッファローに破壊されていくからなのは知っての通り。

 近年、京都の防護結界もついに破壊され、暴走するバッファローの群れも京都を飛び出し、世界へと解き放たれた。今や海を越え走り回るバッファローが世界の都市を蹂躙している。

 まあ、そんなことは今の私にとってはどうでもいいことだ。自然現象に一喜一憂しても仕方ない。

「……ジャスト三分! レポート提出完了っ!!」

 達成感とともに私は声をあげる。

「マスター! チーズケーキを一つ追加で――」

 途端、店の壁を突き破り、バッファローの群れが乱入した。バッファローの群れは貴婦人達を吹き飛ばし、店のすべてを破壊し、去っていく。

 マスターは手慣れた様子で頭を下げる。

「お会計を」

 自然の営みをいちいち気にしていては仕方ないのである。

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