最終話(512文字)





「────それで、そこを走ってきた矢川やがわに突き飛ばされて、助かった。と。」

中田なかたが、ナオに確認を求めた。

ナオは、無言でそれにうなずいた。

「まぁ、そういうことも、殺してるんだから、たまにはある。慣れだ、香里こうり。それに、危険な仕事をせずに済んだじゃねえか。標的ターゲットがわざわざ仕掛けて来てくれてさ」


ナオの目は、その乱れた髪に隠れていて、中田なかたからは見えない。


「まぁ──、ん、まあでも、仲間が死んだんだ。少しの休暇きゅうかぐらいはやるよ。」

中田なかたは言うと、

「家へ帰って、休めよ、香里こうりできるようにな。殺し屋に、殺す以外の生きる道はないだろ?」

とナオへ呼びかけ、タバコの煙を揺らして、帰って行った。


ナオはその背を見向きすらせず、腰に差した黒い拳銃(Glock-17-L)を抜き、その弾倉マガジンが弾で満たされているのを、うつろな、酷いくまのあるその目で確認した。

そして、その羽織っている黒いコートをめくり、拳銃を腰に差すと、ただナオは自分の足元へ、目を向けた。


「一人にしないって約束、守ってよ?」


その、羽織るとあたたかい黒のロングコートの、銀色の金具が、曇り空のかすかなに照らされて、夏みたいに輝いて見えた。


寒い風が吹いていたが、ナオは平気だった。






(『ホームシック・リボルバー』 完)

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