その他
改訂前の本編第一話
あの広い空に、重そうな黒い雲が一面に貼り付けられているので、昼過ぎにも関わらず街は、黒みがかった色の水に沈んだように暗い。
そんな暗くて黒い街には建物がたくさん集まっていて、その建物同士の隙間には、一層暗い影のたまる路地裏があった。
暗い街の中で、路地裏は一段と暗く、この昼過ぎにも関わらず、夜のように暗い。
この路地裏も例に漏れず暗く、曇り空の陽の光でさえ入っていなかった。
まるで夜中の
暗い
そんな路地裏だったが、進んだ先に、少し明るい場所があった。
例えるなら雨の日の午後といった感じで、その上を見上げれば黒い曇り空があり、そこからの
そこへ、
その黒いズボンのスーツを着た低い背と、胸元にまっすぐ垂れ下がっている黒のネクタイ、茶色がかった短く柔らかい髪に、上から
光を受けたその肌は異様に白く、まるで、これまで外に出たことがないのではないか、というほどで、少し不健康な感じがあった。
自身の足元のネズミを見つめるその目は穏やかで、優しげだが、その目元には黒い
彼女の名前は、
ナオは寒さに冷えた自身の両手に息をかけると、その手同士を握り合わせたりして温めた。
そうしながらも彼女は、自分の足元で走り回るネズミを眺めていた。
グレーのその小さい毛並みが、自分のスーツの足元をチョロチョロと素早く、そして
ナオはそれを、その場に少し屈んで見守っていると、なんだか心が温まる感じがして、自然と
少しの間そうしていると、ネズミはどこかへ走り去ってしまった。
ナオはそのネズミの背へ小さく手を振ると、その穏やかな声で「じゃあね」と小さく別れを告げ、「あの子は元気でやっていけるかな」とかポツンと思いながら、自身も立ち上がり、この路地裏を歩き始めた。
暗がりの中を少し歩いたナオは、あるドアの前に立ち止まった。
『
立ち止まったナオは、自身の首元でネクタイを軽く
光の位置によって、ナオの顔に影が浮かんでいる。
ナオは吸った息を長く吐くと、その手を自身の腰へ伸ばし、そこから、銀色の
その
その光が、ナオの
ナオは冷たい重みを感じながらリボルバーを操作し、ナオの細い手指でその
そして目の前にあるドアへ、事前に入手していた合鍵を左手で
開けた先は、バーのカウンター裏だった。
空のグラスや皿、食器、お酒の入った瓶がたくさん並べられていて、それらが店内の金色の照明に照らされて、薄暗い中で豪華そうに
水道の匂いのする、カウンターのステンレスのシンクの前には、若い店員の男がいて、皿を洗い終えた直後なのか、手を濡らして立っている。
そのカウンターの向こう、店内の奥からは、男二人が話し合っている低い声が聞こえてきている。それ以外に聞こえる音といえば、空調の回る
その立っている店員の男は、鍵を閉めていたはずの裏口を、ナオが平然と鍵を開けてそこへ立っているのを見ると、不思議そうな顔をして、丁寧な感じの口調で
「どちら様でしょう?」
と言った。
が、男はナオがリボルバーを握っていることに気がつくと、その顔に汗を浮かべ、店内の奥へと焦って振り返り、助けを求めるような必死な大声で
「店長!殺し屋が来ま───」
ナオの握っているリボルバーの銃口から、煙が
床で
ナオはその様を隈のある生気のない目で見つめると、リボルバーの銃口を男の脳天へ向け、
引き金を引いた。
男から散った血が、置かれた皿やグラスに赤く飛んだのを横目に、ナオはリボルバーの撃鉄を起こすと、カウンターの向こうへと銃口を向けた。
するとその先に、もう一人別の男が飛び込むように現れた。
が、次の瞬間に男は脳天から血を
ナオはその腕に走り抜けた射撃の反動を感じながら、素早く撃鉄を起こし、バー店内の奥へと狙いをつける。
そのソファ席、一人の男が立っていて、今まさにその腰から拳銃を抜いた。
が、男が拳銃を引き抜いたその手は、次の瞬間に撃たれて血を
男の顔が苦痛に歪み、叫び声を上げようとした時だった。
その脳天で血が
ナオは自分が男たちを
そして、店内に充満した血の匂いにむせ返り、一人で
その握ったリボルバーの銃口からは煙が細く
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