第九話(2,284文字)

銀色の四方に囲まれたエレベーター内。

ナオとアカネは二人して、その上方に取り付けられたモニターの、そこに映っているオレンジのドットの階数表示を眺めていた。

『1』、『2』とエレベーターが静かな音を立ててのぼっていき、そして、モニターに『3』と表示されると、エレベーターは減速し、そして女性の声をした機械音声のアナウンスが丁寧に「三階です。」と、二人へ告げると、エレベーターは静止し、続いて「ドアが開きます。」と言うと、二人の目の前の銀色のドアが、ガコンという大きめの音を立てて開いた。

その音が思っていたより大きかったのか、アカネは「わっ」と驚いた声を出し、それをナオに見られると、ちょっと恥ずかしそうにした。


ドアが開いた先に広がったのは、ホテルのロビーだった。


そこへ進むナオは「緊張してる?」と、さっきの音に驚いていたアカネへ言うと、アカネは「大丈夫です、支障は出しません」と、まだちょっと恥ずかしそうに返した。

ナオはアカネのその様に、またちょっと笑った。

そのロビーに並べられた、座り心地の良さそうなソファ、観葉植物、カーペットの匂いを通り過ぎると、二人はそこの階段を上り始めた。

その踊り場の壁に付けられた、暖色系だんしょくけいの光を放つ照明が、二人のスーツの黒色を照らしている。


二階層にかいそう上った二人は、そのホテルの部屋がズラリと並ぶ長い廊下に出た。

ここにもまた、さっき同じ暖色系の照明が、それぞれの部屋同士の間の壁に付けられていて、きらめいている。


二人は声をひそめて

「221号室でしたよね」

「うん、私が前を進むから、後ろから援護お願い」

「わかりました」

とか言いながらそこで各々の銃を腰から抜き、ナオは銀色のリボルバー(S&W-M686)の弾倉に、慣れた手つきで金色の弾(357マグナム弾)を六発込め、アカネは黒い拳銃(Glock-17-L)に、その持ち手グリップ弾倉マガジンを二度ほどぶつけながらも、その弾倉マガジンしこんで(9×19mm弾)を十七発入れ、その細い手で静かに遊底スライドを引き、二人は銃をいつでも撃てる状態にすると、標的の部屋のドアの前に立った。


ナオがドアへリボルバーを構える、その前でアカネは、ナオから受け取った合鍵を、姿勢を低くしてドアへ挿すと、ナオへ目配めくばせした。

ナオはリボルバーの撃鉄げきてつを起こすとアカネへ目配せし、伝わると、アカネはドアをゆっくりと開け出した。


開けた先、ナオの視界に明るい部屋が広がる。

その玄関には靴が四足よんそく、雑に置かれている。

標的は全部で四人。


ナオは前方へリボルバーを構えながら、土足で部屋に上がった。


廊下を進むナオ、その横にはトイレのドアがあるが、アカネがそこを照準しょうじゅんに入れているので、ナオは前方を警戒けいかいする。


部屋の白い照明に、目の前に構えたリボルバーの銀色が輝く。


その時、横から水を流す音が聞こえた。

トイレに一人いる。

振り向いてアカネに目配せすると、

ナオはトイレのドアへ引き金を二度引いた。


二度銃声がぜ、

ドアに煙と共に二つの穴が空く。

するとナオはコートからナイフを抜き、

ドアを蹴破けやぶって中をおそい始めた。


ナオが入ったトイレから赤黒い血が流れて、男のうめく声が聞こえる。


それを見たアカネは、廊下の奥へ照準を向けた。

トイレからのうめき声がアカネの包帯を巻いた頭に響くが、アカネはなんとかその包帯で隠れた視界で前方、廊下の奥を警戒する。


が、誰も出てこない。

静寂の中に、トイレの男のうめき声だけが漂う。


その時、廊下の奥に人影が現れた。

大きなライフル銃を持った男だ。


瞬間、アカネがそれを撃つよりも早く、銃声が鳴った。

すると、その男は頭から血をいて、その床へ勢いよく倒れた。


ナオがトイレから撃ったのだった。


煙と共に、トイレから返り血にまみれて出てきたナオはそこから、一人の男の死体が転がる廊下の奥へリボルバーを構えている。


標的はあと二人。

廊下の奥のリビングルーム、その入り口へアカネが照準を向けているのを確認したナオはトイレに隠れ、握ったリボルバーの弾倉へから薬莢を三つ抜くと、そこへ素早く弾を込め始めた。


その時、ライフル銃を構えた男が廊下の奥に現れ、ナオがいるトイレへ銃口を向けた。


アカネはそれへ引き金を引いた。

が、一発目が外れた。


もう一度引き金を引こうとしたその時、


廊下の奥からもう一人、

拳銃を持った男が現れ、アカネを狙った。


照準が間に合わないアカネは大いにあせり、

撃った二発目も外れてしまった。


ライフル銃を持った男が、トイレへ引き金を引こうとした、その時


その男はナオに腹をられ、その場に崩れた。

男が持ったライフルの銃口は上を向いて光り、銃声が爆音で鳴り響く。

その男が崩れたのに巻き込まれ、アカネを狙っていた男も崩れた。


返り血まみれのナオはその男二人が崩れたのを見るや血まみれのコートからナイフを引き抜き、一瞬にしてその一人の首をさばくと、その赤い血飛沫を浴びながら二人目の心臓を刺し、その身体に深く、銀色に輝く刃を刺し込み、噴き出す血を浴びながら大きく切り裂いた。


部屋の外のアカネにも見えるほどに、男二人の身体から激しく血飛沫が上がっている。


ナオは血が溢れる男の身体からナイフを引き抜いた。


肉の人形になって、ただの物体のように動かなくなった男二人の上、ナオは返り血で真っ赤になって立っている。

いつもの焦茶色こげちゃいろのコートは赤黒くなり、血がしたたっている。


するとアカネへ振り返り、

「大丈夫?怪我、してない?」

と、息を切らしながら言った。


握っているナイフの刃に白い照明が当たり、したたる血の赤と共に輝いている。


アカネはそのあまりの惨状さんじょうに、思わずその場に腰を抜かしてへたり込むも、返り血で真っ赤なナオへ

「はい、大丈夫、です」

と、震えた声で言った。


ナオはそれへ「よかった。」と呟くように言った。

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