第八話(1,784文字)

黒い曇り空の朝。

信号待ちの車の運転席でナオは、またありもしない不安から、リボルバーの弾倉を確認していた。

その横の助手席に座っているアカネは、ナオがそうしているのを見るや自分も真似して、その腰に差している黒い拳銃(Glock-17-L)を抜いて、その弾倉を確認し出した。

ナオはリボルバーの弾倉を確認し終え、信号の赤色を一瞥いちべつした後、アカネの握っているその拳銃を見た。

それは、銃身が通常のモデル(Glock-17)のものよりも長い、少し変わったモデルの銃で、ナオのリボルバーの銃身が2.5インチ(約6センチ)ほどなのに対し、アカネのそれは約6インチ(約15センチ)ほどあった。

それを見たナオは

「そういえば、珍しいの使ってるね」

とアカネへ何気なく言った。

アカネはそれを聞くと、

「そうなんです、これ手に入れるの、大変でした。」

と、言うと続けて

「でも、実はあんまり使いこなせてないんですよね、」

と、握った拳銃を見つめて、悲しげな感じに言った。

それを見たナオは「ものは慣れだよ、大丈夫大丈夫」と励ますように言った。

後、

「でもよく見つけてきたね、そんな珍しいの。なんで欲しいって思ったの?」

と聞いた。

アカネは、

「これ、競技用に開発されたモデルらしくて、正確に狙えるのが長所らしいんです。」

と言うと、自身たちの乗る車の少し先にある横断歩道を歩く一般人たちを横目に、その拳銃を握りながら、

「正確に狙えるなら、一発で頭を撃って、それで、苦しみなく人を、その、できると思って、買ったんです、これ」

と言った後、小さく

「私なんかには、そんなの難しいんですけど」

と、悲しげに呟いた。

それを聞いたナオは、アカネのその悲しそうな左目を見つめ

「優しいんだね、アカネちゃん。」

と言うと、

「もし、よかったらなんだけどね。今度、一緒に射撃場行ってさ、撃つ練習しない?頭を撃つの、できるようになるかも知れないし、私もある程度なら教えられるけど、どうかな」

と聞いた。

悲しそうだったアカネはそれに顔を上げて「いいんですか」と言った。

ナオは信号が青になったのを見ると、車を動かしながら、

「うん、いいよ。でも、教えられるかな、人に教えるのとか、やったことなくって」

と、急にちょっと自信をなくして言った。

それでもアカネは

「いえ、全然構いませんから、教えていただきたいです。」

と言うと続けて

「それに、中田なかたさんも、ナオさんの射撃の腕はすごいって言ってましたよ」

と言った。

さらにアカネは続けて

「確か中田なかたさんは、今まで持った人たちの中で、ナオさんが一番の腕だ、って言ってました。」

と言った。

ナオはそれに「そうなんだ。」と呟くように言うと、続けて

「実は、私ね、いろいろあって小さい頃から銃には触れてきたし、撃ち方とかも教わったことあるんだ。だからそれも、あるの、かな」

と、不意ふいに昔のことを思い出して少しだけ暗くなりながら言った。

アカネはその暗くなったナオに気づいて、

「あぁ、すいません、変なこと言っちゃって、ごめんなさい。」

と頭を下げた。

ナオは、頭を下げたアカネへまたアワアワしつつも、車を地下駐車場へ進ませ、そこで駐車券を発行した後「ううん、気にしないで、こっちこそ、変なこと言ってごめん。」と、地下駐車場に入って暗くなった車内であやまった。


アカネが車から降りると、先に降りていたナオはその鍵を閉めた。

後、ナオはその焦茶色こげちゃいろのコートを軽く羽織り直すと、ネクタイをめ直しているアカネを見て「準備、できた?」と言い、アカネが深呼吸して「はい」とうなずくと、二人で歩き出した。


暗い、コンクリートづくりの地下駐車場。

その、配線やスプリンクラーが設置された天井には、地面の道に沿って電灯が取り付けられており、その無機質な白い光が、停めてある車たちの車体をめている。


「仕事の内容、覚えてる?」

「ええ、ばっちりです。ここの三階ですよね」

「いいね。エレベーターで行かない?」

とか二人は話しながら、その暗い駐車場内で一際ひときわ明るい、そのエレベーターホールへと歩き、アカネが歩を速めて先を歩くと、そのホールへの入り口であるガラス張りのドアを開け、ナオへ「どうぞ」と言って通した。

ナオはちょっと笑いながら「いいのに、ありがと。」と言うとそれに通った。

「別にそんな、先輩扱いしなくっていいんだよ?」

とナオは後ろでドアを閉めるアカネへ、ちょっと笑いながら言った。

アカネもどうやら冗談だったようで、その包帯を巻いた顔で、ちょっと笑っていた。

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