第七話(1,621文字)

「お昼、一緒にどうかな?」


あの駐車場から歩いて数分のところにあるチェーンのファミリーレストランに、ナオとアカネは入った。

その二人を出迎えた店員は、アカネの右目の包帯に一瞬ギョッとして驚いたが、すぐに「何名様でしょう?」と聞いてきた。

それにナオが「二人です」と、手でピースするみたいにして『二』を作りながら答えると、店員は二人を席へ案内し始めた。

この洋風の店内に人はまばらで、二人は窓際のソファ席に通された。


その席は、テーブルを挟んで窓際側がソファの座席で、その向かい側、店内側が椅子の座席になっていた。

ナオはその椅子の席に迷いなく、羽織っていた焦茶色こげちゃいろのコートをかけると、そこへ座った。

それを見たアカネはちょっと、ソファ席に座るのを一瞬躊躇ためらったが、そんなアカネにナオが微笑んで「座って座って、」と言ったのを聞くと、アカネは「ありがとうございます、失礼します」と小さく言ってソファ席に座り、羽織っていた黒色のコートを脱いでソファの隣へ丁寧に丸めて置いた。


座ったアカネへナオは

「その怪我、やっぱり痛そうだよ、ほんとに大丈夫?どうしたの?」

と、心配そうに聞いた。

アカネは

「えっと、この前の仕事の時に殴られちゃっただけですので、大丈夫です、仕事に支障は出しません。心配、ありがとうございます」

と微笑んで言いながら、テーブルの棚からメニュー表を取り出してテーブルの上に、ナオだけに見えるような向きで置いた。

ナオはそれに

「そうなんだ、痛むなら、無理しなくってもいいから、いつでも言ってね。」

と言うと、アカネが置いたメニュー表を、アカネと二人で見れるような向きに置き直した。

アカネはそれへ「ありがとうごさいます。」と言うと、ナオと一緒にメニューを見始めた。

包帯で右目が見えないアカネへ、ナオはメニュー表をちょっと近づけて「先選んでいいよ、私、まだ迷ってるんだぁ」と言った。

アカネはまたちょっと躊躇ためらいながらも注文を決めると、ナオへメニューを渡し、ナオがメニューを決めると、テーブルのベルへ手を伸ばして「押します?」と聞いて、ナオがそれに「ありがとう、お願い。」と言ったのを聞くと、ベルを押した。


注文を聞き終えた店員が帰っていくのを見るとアカネはソファから立ち上がって、ナオへ

「ドリンクバー取って来ます。何にしましょう?」

と聞いたが、ナオはそれに下から

「ありがとう、でも、一緒に行きたいんだけど、いいかな」

と聞いた。

アカネが「ええ、行きましょう」と返すと、ナオも立ち上がった。


ドリンクバーへ歩く二人、ナオがアカネへ「ねぇ、アカネちゃん」と呼んでみた。

するとアカネはちょっとびっくりして「なんでしょう、香里こうりさん」と返したので、ナオは

「呼び方、アカネちゃん、でいいかな、馴れ馴れしくないかな」

と、ちょっと不安げにアカネへ聞いた。

アカネは「ええ、なんと読んでいただいても、構いませんよ」と答えると、

「逆に、香里こうりさん、と呼んでいて、私は大丈夫でしょうか」

とナオへ聞いた。

ナオは

「うん、いいよ。落ち着く呼び方で呼んでよ。」

とアカネへ返すと、加えて

「でも、私たち同い年同士だし、ナオ、って呼んでくれても大丈夫だよ?」

と、身長的にアカネを少し見上げる形でナオは聞いた。

するとアカネは、ちょっと恥ずかしそうにしながら、

「じゃあ、ナオ、ナオさん、って呼んでもいいですかね」

と聞いた。

ナオもナオでちょっと恥ずかしそうにしながら、「うん、いいよ。ありがと、アカネちゃん。」と答えると、その恥じらいを隠すみたいにして「飲み物、何するか決めた?」と聞いた。


待ち時間、ナオがおもむろに、棚に置いてある間違い探しを取り出すと、「やろうよ」とアカネへ言って、それをテーブルに、右目が包帯で見えないアカネにも見えやすいようにして広げた。

アカネは「自分、これ得意なんですよ」と意気込むと、間違い探しをジッと眺めて解き始めた。

ナオは、アカネのその熱心な表情を少し眺めた後、一緒に間違い探しを解き始めた。

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