第五話(2,566文字)
マンションの前には、緑の服を着た清掃業者たちの乗った車が到着し、降りた彼らはゾロゾロとマンションの玄関ホールへ入っていった。
清掃用具等を
まともな照明もないような、暗い、ところどころに
そこからは黒い曇り空が嫌でも目につき、薄寒い風が
その廊下の先を進み、業者たちの一人はある部屋のドアをノックした。
分厚い金属のドアが、ノックの
少しするとドアが開き、その真っ暗な部屋の中から、背の低い、乱れた髪の、病的に白い肌をした女性、もといナオが、その顔や手やスーツに真っ赤な返り血を浴びたまま、業者たちを出迎えた。
そして、ナオはその
「ご苦労様です」
と、暗い顔をして、業者たちへぎこちない
後、なんとか笑顔をつくって、「お早いですね、助かります。ありがとうございます。」と元気そうな振りをして、部屋へゾロゾロと入っていく業者たちへ言った。
その、入っていく業者たちの列の最後尾、ワゴンを押している人の、その更に後ろにもう一人、スーツを着た一人の男がいた。
彼はナオの上司にあたる人間だった。
男はその低い声で血まみれのナオへ、
「
と、部屋の玄関ドアの所に立って、ポケットに手を突っ込みながら言った。
気付いたナオは「あぁ、
「服は着替えますから、ちょっとだけ待ってていただけませんか。これから業者の方から着替え受け取るので、」
と上司の男、もとい
着替えを受け取ったナオは
柵にもたれかかって外を見る
そこには『38年間、ありがとう』とこれでもかと大きく書かれていた。
業者の一人を呼びつけて、タバコの吸い殻を捨てさせたりして
「お待たせしてしまい、すいません。」と
「ここに、次の仕事のことが入ってるから、まあいつも通り、また読んどけ。」
と言うと、その封筒をナオへ手渡した。
ナオが受け取った封筒をスーツの
「まあ、その封筒にも書いてることなんだけど、次の仕事からはお前に、
ナオはその聞いたことのない名前に少し困惑するも、
「そうなんですね。どんな方なんですか?その、
と
「
と言い、またタバコを吸った。
ナオは、自分と同い年でこの仕事をしている人が他にもいることに驚いた。
「同い年の人、それも女の人なんて。私、この仕事してて初めてです。」
「まあ、そうだろうな。ただ、最近は
ナオはその
同年代の人なんて、ナオにとってはもう何年ぶりかわからなかった。
この業界に入ってから、ナオの周りには自分より歳上の人間しかほぼいなかったのだった。
「でもどうして、そんなに若い歳でこの仕事をしてるんですかね、
「そりゃあまあ、何かしらの事情だろ。知らないけど。」
そう言ってタバコの火を消した
「というか、お前だって若いのに、なんでこの仕事始めたんだ。一度やれば戻れないのに。」
と、マンションの柵に腕をもたれかけてナオへ聞いた。
ナオはその
「いえ、話すのは、やめておきます。暗い話ですから。きっと、気分も悪くなっちゃいます。」
と、元気のない声で言った。
ナオのその細い手は固く握られていて、少し震えている。
「まあそんな話はともかく、次の仕事からは、
と言った後、
「
と続けるとポケットに手を突っ込んで、マンションの階段へ歩き出し、ナオへ「うまいことやれよ。じゃあな」と告げると、そのまま帰って行った。
昔のことを思い出して暗くなっていたナオは、その
曇り空の下、大きなショッピングモールが、鉄の
ナオは
「頑張ってるだろうに、役立たずなんて呼ばなくってもいいじゃん」とナオは思った。
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