第四話(1,582文字)

道中、道路の凸凹でこぼこをタイヤ越しに鮮明に感じながら、ナオは車を走らせていた。


信号待ち、ふと歩道へ目をやるとカラスがいるのが、ナオはやけに気になってしまった。


これではまともに仕事ができない、着くまでに事故を起こしてしまう、と思ったナオは、またリボルバーの弾倉を横目で確認すると、気を引き締め、カラスの方を見ないように心がけた。


が、誰かに、カラスの方を見なければ殺す、とおどされているような気がしてきたナオは、カラスの方をちらっと見てしまった。


もちろん、何が起こるというわけもなく、ただアスファルトの上をカラスはチョンチョンと跳ねながら、道行く人々のことを眺めているだけだった。


そんなみだれた心でナオは車を走らせ、黄色い看板の駐車場に車を停めると、その鍵を抜いて車から降り、歩き出した。


歩道を歩くナオの横を車が走り去り、冷たい風がナオへ吹きつける。


道に立ち並ぶ、薄汚れた白色の雑居ビルたちは、ナオをジッと見下ろしている。


上にっている電線には、またカラスが止まっており、キョロキョロと辺りを見回している。


頭の中では、また誰かがリボルバーの弾倉のことを言っていて、殺すぞとナオを脅している。


ナオは気がおかしくなりそうだったが、焦茶色こげちゃいろコートのポケットに手を突っ込んで、黙々もくもくと道を歩いた。


そして、ナオはあるマンションの前にやってきた。

そんなに大きくはない、薄汚れてさびれている白いマンションだった。


ナオは隈のある目でそれを眺めると、コートの上から自分の腰を手で触り、差しているリボルバーの感触を確かめると、気が狂いそうなままのその頭のままで、そのマンションの入り口へ進んだ。


気の狂いそうな頭が痛い黒い空の見える、寒い廊下を進むと、ナオはあるドアの前で立ち止まり、そこへ、バーの時人を三人も殺したのように事前に入手していた合鍵を挿すと、右手に弾の込めたリボルバーを持って、その撃鉄を起こし、ドアを開けた。


その暗い室内、廊下を進んだ先のリビング置かれている家具を見ている暇はないには二人の男がいて、ドアを開けたナオは瞬時に、その片方を撃った妙に引き金が軽く感じる


最初に胸を撃ったつもりだったが、ナオはうまく狙えておらず頭が痛くて、弾は腹に当たっていた。

ナオはその痛む頭のままで気が狂いそう、その腹から血を流す男が死ぬまで引き金を引いた撃たれるたびに、男の身体が小さく跳ねる

ようやく、その男は動かなくなった。ナオの靴に、ベタベタした血の感触が伝わる


が、もう一人の男はナオにもう気づいていて、ナオへ殴りかかった。


ナオは反射的に頭が痛むままだったがリボルバーを床へ捨ててコートからナイフを引き抜くと、その男の首を一瞬にして刺したその感覚に、ナオの意識が少しずつ覚めていく


ナオがその手へ力を加えるごとに、男の首から血がドクドクと赤黒い血が、この木の床へダラダラと止まらずに滴り落ちる溢れて、男の身体から力が抜けていく。


肌を突き破る感触痛そうだ水気の含んだ肉の感触苦しそうだ骨の硬さ辛そうだ絡まる血管死んでしまうんだ

すべての感触が、銀色のナイフの刃暗いこの部屋の微かな光を受けて眩しい、目に刺さるように痛いを伝い、ナオの手へ包み隠さずに全て男の苦しむ様、血走った目、口から吐かれる血が、ナオの顔に降りかかる。その、ベトつく感触伝わる。


ナオは男を次第に動かなくなる表情、剥かれた目、真っ赤な身体、首元のホクロ刺し殺した血の溢れる首からナイフを引き抜き、心臓を思い切り潰すようにして刺し、そのギラつく刃を引き抜いた





ナオは気がつけばえ切った意識で、この暗い部屋に、息を切らして立っており、その血まみれの足元には、二人の男の死体が転がっていた。


片方の死体には、五発ほどの弾痕があり、その一つ一つが、血を未だにこの木の床へ流している。


もう片方の死体、その首には深い深い刺し傷があり、胸も同様で、そこから信じられないほどの量の血を吐き出していて、とても見ていられない。


ナオはその惨状に思わず、握ってるナイフを床へと落としてしまった。

床を見たナオは、その視界に映った、自身の真っ赤な手を見て、恐怖した。


それから目をらしたナオは、その部屋の壁に目を向けた。


暗いが、壁にかけられたカレンダーやポスターが見えた。


あの人、自分が殺した人たちの貼ったものだろう。


どんな思いをして貼ったんだろうか、ワクワクしたんだろうか。


どんな思いをして買ってきたんだろう。


買った時は、どんな店員さんがお会計をしたんだろう。


なんで自分は、この人たちを殺したんだっけ。


なんで自分は、こんな仕事をしてるんだっけ。


ナオの視界は知らぬ間に、涙ぐんでいてぼやけていた。

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