第三話(2,384文字)
秒針の音だけが鳴る、静かで、暗い部屋。
ベッドの上に座り込むナオは、そのぐしゃぐしゃにしたままの髪がかかった目を
置いてある
スーツを着たナオは髪を整えながらも、その自身の目元の隈に気づいていたが、いつものことだったので特に反応せず、表情を変えないままネクタイを
カーテンを開けた窓の外は
重そうに浮かぶ分厚い雲が、今にも雨の降りそうな色をして、地に寒そうに並ぶ建物たちを無言で
外はそんな景色なので、窓のカーテンを開けても、ナオの部屋に光という光は入ってこず、むしろ、カーテンを開けていなかった時の方が部屋が明るかったような気さえしてくる
朝の
そして玄関へ行く前に、ナオはベッドの上に座らせたアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみの頭をもう一度撫で、
「行ってくるね、シロ」
とぬいぐるみ、もといシロへ呼びかけると、「いい子にしてるんだよぉ」とまたその頭を
玄関。
靴を履いたナオはなんだか落ち着かなかったので、座ったまま、もう一度リボルバーの
冷たい銀色のリボルバー、その六つの穴の空いた
弾が入ってるか
そうしてナオは、そのずっしりした重みのあるリボルバーを腰へ差し戻すと立ち上がって、靴のつま先を床にトントンとした後、玄関ドアを開けて外へ出た。
すると肌寒い風が、黒く広がる曇り空からナオへと、その暗い影の中を押し寄せてきたが、ナオは気にせずドアの鍵を閉めた。
そうしてエレベーターへと向かっている途中、ナオはまた、リボルバーの弾倉が空になってるかどうかが気になってきていた。
「取り
そして、外の駐車場にある自分の車に乗り込んだナオはドアを閉めると、その手元でリボルバーの弾倉を確認した。
暗い車内、リボルバーが
弾倉を見るとやはり、弾は一発も入っていなかった。
腰へリボルバーを戻したナオは一息つくと、その座席にもたれかかり、少しボーっと空を眺め出した。
黒いカラスが、灰色の電柱から伸びる電線にとまって、
ナオがポツンと「カラスも、かわいい顔してるんだなあ」とか思ったその時、そのカラスは電線から急に飛び降りて羽ばたき、ナオの乗っている車の前へ飛んできて、そのアスファルトの上に着地し、ナオのことを、まるで
この黒い空の下の、薄暗いアスファルトの上、真っ黒のカラスはほぼ
そして次の瞬間、カラスは真っ赤な血を
真っ赤になったアスファルトの上、黒い羽根がそこらに
ナオは、何が起こったのかわからなかった。
リボルバーが
弾は入ってなかったはずなのに
なんで
恐怖に震え、
黒い空の下、薄暗いアスファルトの上には、まだあのカラスが変わらずおり、ナオのことをジッと眺めている。
フロントガラスも、綺麗なままだった。
ナオはその涙ぐんでいる目を何度か擦ったり、閉じては開いたりして、何度も何度もその景色を確かめた。
が、どこにもカラスが破裂した跡なんてなかった。
ナオの頭に「怖い」という文字が
黒い空では、変わらず、ゆっくりと分厚い雲が流れている。
向こうに見える、自分の住んでいるマンションでも、誰か人々が変わらず生活しているようで、カーテンを開ける人影なんかがポツポツと見える。
リボルバーの弾倉を確認しても、弾は入っていない。
カラスは今、ナオの目の前で羽ばたいていって、黒い空に見えなくなった。
肩で息を切らすナオは、幻覚か何かだろう、と無理矢理結論づけ、仕事に遅れまいと、その涙ぐんだ視界を擦ると、震える手でシートベルトをして、車に鍵を
が、うまく挿せず、三度ほど鍵をぶつけた後に、ようやく鍵を挿すことができた。
そうして車を走らせ、ナオは今日も仕事へ向かった。
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