兄の邪魔する私の恋路

蒼雪 玲楓

恋路の分かれ目まで

 少女には三分以内にやらなければならないことがあった。


「バカバカバカ!!なんで今日に限ってやらかすのバカ兄貴!」


 ―――シスコンの兄を家から追い出すという大仕事である。



 事の発端は一月ほど前まで遡る。

 少女の学校で文化祭が開催されることとなり、クラスで実行委員が募集された。

 募集されたのは男女一人ずつ。

 結果として周囲の協力と多少の運を味方につけ、想い人と一緒に実行委員となることができた。

 そこからは放課後に居残りして打ち合わせをしたり、一緒に会議に出たりと順調に距離を縮めることができた。



 そこから時は流れ文化祭の開催まで約2週間。

 残り予算や追加で必要な備品の確認などをしたほうがいいという話が出た。


「ねえ、よかったらなんだけどさ…………それ、うちに来てやらない?」


 これはチャンス!と意気込んだ少女は想い人を家へと誘う。

 少しの間の後に返ってきた答えは承諾。

 見えないようにガッツポーズをしたのを不審がられたりという小さなアクシデントはあったものの、少女の目論見の第一段階はクリアされた。


 しかし、ここでネックとなったのが家族の存在である。

 文化祭の打ち合わせという名目で家に誘いはしたものの、異性のクラスメイトを家に呼んだことがバレれば一悶着起きることは容易に想像がつく。

 そして、その中でも特に大きな問題となるのが少女の兄である。


 いわゆるシスコンと呼ばれる類の人種であり、想い人とと自宅で遭遇なんてすれば面倒な絡み方をする姿が少女の脳裏に浮かぶ。

 それをどうしようかと悩み少女の姿を不憫に思った神でもいたのか、そこは定かではないが兄に突然予定が入る。

 そのことを聞いた少女が喜ぶ姿に打ちのめされる何かの姿がその日観測されたとかされていないとか。



 何はともあれ。

 無事に想い人との予定も合わせ、迎えた当日。

 訪ねてくるのは昼頃ということで、朝早くから落ち着かない様子で自分の部屋を掃除したり、服におかしなところがないか確認したり。

 挙句には10分に一度くらいの頻度で鏡の前に立っては髪型を確かめ、誰が見ても浮かれてそわそわしているというのがわかる。


 そうして後30分くらい、かと少女が時計を確認したそのとき。


 自分以外には誰もいないはずの家の中から物音がした。

 何事かと恐る恐る確認してみれば、そこには本来今の時間に家にいるはずのない兄の姿があった。


「なんで!なんで!今家にいるわけ!?」


 問いただせば返ってきた返答は寝坊、というあまりにもシンプルな答え。

 しかも、そこまでの遅刻ではないものの面倒になったから行くのをやめようと言い出すものだから少女の心中は全く穏やかではない。

 なんとかして家から兄を追い出さなければならない。

 そのプランを考えるために頭脳がフル回転される。


 その結果。


 めんどくさがった兄の説得におよそ10分。

 準備を手伝うと言った結果喜んでしまい、全く準備が進まなかった兄をなだめるのに5分。

 そこからの準備でおよそ10分。


 計25分が経過し、想い人が来るまでに兄を追い出せるかどうかがギリギリとなってしまった。

 玄関前で二人が遭遇してそのまま出かけるのをやめる、なんてことは想像したくもない。

 そんな少女の心配をよそに刻一刻と時間は過ぎていく。


 この後の一日がどうなるか決まるまでおよそ3分。


 少女の恋路の向かう先は果たしてどうなるのか

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