第44話 護摩御堂家の一族
田坂が【法照寺】に到着したのは、
ヤツから電話が入ってから四十分も
なかったんじゃねぇかな。マジで寺の
門前まで車で乗り付けて来やがった。
遡る事、約四十分ほど前。
ヤツから丁度連絡を貰うのと、時を
同じくして。俺らは麻川住職の案内で
あの武家屋敷の様な護摩御堂家の
墓所へ参った。
しかも折角だからって何故か住職、
記念写真なんぞ撮ってくれたりしながら
結局、あの『魔物』の話になる。
そこから、何だかんだと本堂へと場所を
移して話を聞いてるうちに、又しても
『怪談会』の様相を呈していた。
驚く事にあの 徳永誠一郎弁護士 が
無類の怪談好きだという事がここに来て
判明したが、奥方の方は怖がってるのか
喜んでいるのか、きゃーきゃー言いつつ
熱心に耳を傾けていた。
結局、皆んな怖ぇハナシ大好きだろ。
俺だけ変人扱いされてるのには、何か
イマイチ納得出来ねえんだが。
「諒太!ヤバい。」寺の本堂に到着した
田坂の第一声が、ソレだった。
「あら、優斗君!」「あ…奥方。それに
徳永先生も。ご無沙汰してます。」
慌てて挨拶返す法人営業。いいのかよ?
そんな為体で。
「お初にお目に掛かります。藤崎とは
同期で、法人営業第一部の田坂優斗と
申します。」ヤツは慌てて麻川住職に
自分の名刺を渡す。「これはご丁寧に。
貴方も話、聞いて行かれますかな?」
「あー…聞きたいのは山々なんですが、
ちょっと深刻なトラブルというか…。
徳永先生!本田先生から、ご連絡来て
ないでしょうか?」「あ、しまった。
真剣にお話を伺っていたので、完全に
オフにしていた。」徳永弁護士が
内ポケットのスマホを取り出す。流石は
日本屈指の怪談好き弁護士だな。もう
俺の中ではこのヒト 同志 だから。
「…いや、これは…。」徳永弁護士、
絶句する。そしてメールを開いて何やら
確認を始めた。
「ヤバいぞ諒太。筧会長が買収辞退した
話から『櫻護』に売る流れにはなったが
一億余分にふっ掛けられた!」「あ?」
「つまり、十一億が売値だと。それを
『櫻護』側に正式に通告しやがった。」
「何だと?!ソレ、単なる嫌がらせじゃ
ねえか!筧との関係はオマエのお陰で
却って良好になったってぇのに!」
一瞬、俺はキレそうになった。だが
キレる 相手 が違う。
「諒太君、彼の話は事実の様です。」
今迄スマホ片手に何やらメールに目を
通していた徳永弁護士も、田坂の話に
首肯した。
てか、俺のコト今、何て?
「即金でローン不可。期限は閉店まで。
それが無理なら公募に移すと。」
「…。」岸田が不安そうな顔を向ける。
「これは一旦、戻って理事会を緊急に
招集しないと。」
「ちょっと、それ。一体誰の指し矩?」
突如、奥方が言う。
見た目は華やかだが、基本はおっとり
している。しかも大体お金の事は夫に
任せっ放しの細君だ。
ウチの 看板窓口担当者 だったのは
遠い昔の話で。
「あの、クソ野郎の指し矩じゃないの?
本っ当に!昔ッから…あの男はッ!」
え…今、なんて?
今 クソ野郎 って言った?奥方?!
「奥方、誰の事です?」田坂が果敢にも
それを尋ねる。「神田よ!神田寛治。」
如何にも忌々しげに言うその名前は確か
「神田専務?!」「アイツ同期なのよ。
昔の綽名は カンカン。」「…え…それ
初耳なんだけど。オマエ知ってた?」
田坂に聞くが、ヤツもふるふる頭を横に
振るばかりだ。
頭領と奥方が同期だとは知ってたが、
まさかの神田専務まで。
いやそれにしても……カンカンって。
俺はすっかり怒りの置き処を見失う。
「許せないわ!」奥方はそう言うと、
何故か麻川住職の方へと向き直った。
「…は、はい?」住職、超困り顔で
それに応じるが。
「私は護摩御堂家の血を引く、小淵沢
芳邦の妻です。私も魔物にお願いしたい
事が御座います!念願成就の暁には、
この首を…!」
「いやいやいや!やめて下さい奥方!」
「あり得ねぇから!マジやめて奥方!」
突然、奥方とんでもねえ事を言い出す。
もしそんな事になってみろ。俺も田坂も
頭領にぶっ殺される。
「奥方様は、血が違いますからな。」
「…。」露骨にガッカリする奥方。
だが。
「クラウドファンディングをしては
如何かな?私が主宰しましょう。」
まさに坊主の助け。
「御住職!有難う御座います。」
「…でもまぁ、此処に封じているアレ。
どうやら今回も参加していた様ですな。
吉と出るやら凶と出るやら…。」
「…?!!」
確かに、今気が付いたが。
座布団と茶が、また一組増えていた。
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