第43話 太白星の瞬き

「おっ?何だよお前らガン首揃えて。」

支店長室のドアを開けた瞬間に。

左から、岸田、畠山、守本…。しかも

皆、口あんぐり開けちゃってよ。


「…藤崎さん。あの、其方のお客様。」

岸田がおずおずと口を開いた。

「あー、こちら。お前ら知ってんだろ

弁護士の徳永先生、ウチの顧問。それに

こちらは俺の初任店長だった頭領の細君

小淵沢真理子さんだ。」「えぇっ?!」

「あ、畠山。この書類、処理してくれ。

なる早で。」俺は豆鉄砲喰らったような

畠山にクリアファイルの書類を渡す。


「え…これって!」「おうよ。忙しい所

マジ済まねぇけど、宜しく頼むな。あ、

手続きの、一番最後だからな?振込は。

じゃねぇと又おかしな事になるから。」

「あ、はい!」慌てて畠山が、書類を

事務課に持って行く。

「でも諒太君。振込この時間じゃもう

難しいんじゃないの?」奥方が言う。

「大丈夫ですよ、今はデータをセンター

経由で仕向け先に送るから。そもそも、

ダイレクトなら二十四時間振り込める。

不便になった反面、そこそこ便利にも

なってはいます。」「へぇ、凄いわ!」

 奥方は目を丸くして言うが、そんな

流れでこの店も無くなっちまうんだから

皮肉なモンだよな。


「藤崎君、折角だから護摩御堂家の

墓参をして戻ろうかと思うんだが。」

徳永弁護士が突然、そんな事を言い

出した。態々丸の内から来て貰った

だけでも充分に有難ぇのに。

「でも徳永先生。お忙しいのでは?」

意外な申し出に俺はかなり恐縮した。

忙しくない訳がない。

「僕はクライアントの事はしっかりと

把握しておきたい主義なんです。勿論

小淵沢君は一緒に何度も仕事をしたし

良い顧客を沢山紹介して貰った。

『櫻護』の理事の一人として今回の

クライアント、護摩御堂雪江さんの

墓所には矢張り参っておきたい。

『法照寺』へは、横の道を真っ直ぐ

登れば良いんですか?」

「あら、それなら私もご一緒させて

下さい。護摩御堂雪江さんは、何せ

私の 義母はは に当たる方ですから。」

奥方がそれに追従する。


「俺がご案内しますよ。先生がそう

仰るなら折角だ。ここの『護櫻』も

見てやって下さい。」化け櫻、な。


何なら『居酒屋妖怪屋敷』にも

案内したいぐらいだが、流石に

そこまで時間はねぇだろな。いや、

でもこの人スゲェな。流石は頭領が

その後 を託した人なだけある。




徳永弁護士のたってのリクエストで

俺らは『法照寺』を目指して、緩い

山道を歩き始めた。もうすっかり

周りの木々が青々と、というか寧ろ

鬱蒼と葉を蓄えている。

 何とか夏の『怪談宵会』にはギリ

参加出来るかな。多分、相当に盛り

上がるんだろうな。その後は絶対、

妖怪屋敷でビールだよな。そんな事を

思ったら何だかマジで泣けて来そうで

俺は空を仰いだ。




「凄い門構えですね。真に古刹だ。」

「お寺の歴史は古いと聞いていますよ。

麻川住職の話では、仏教伝来の頃に

こっちに渡って来ちゃった魔物の為に

護摩御堂家の先祖が建てたお寺とか。

…本当ですかね。」ちゃっかり岸田が

徳永弁護士に解説している。

何かオマエ、茶坊主みたいだぞ?

そんな事を想像したら、何だか涙も

引っ込んだわ。


「護摩御堂家に深く関わる古刹で

あるのは間違いないでしょうね。

先ずは御住職にご挨拶を。」

「凄いわね…此処で『怪談会』が

開催されるんでしょ?」…奥方。

俺、そんな事も話したっけかな?

「もう、藤崎さんが大のファンで。

仕事に託けて毎回通っていますよ。」

「岸田ァ!仕事、だよ!ちゃんと

運用報告しねぇとだろ?定期的に。

その日が偶々カブるだけじゃねぇか

『怪談会』と。」何で笑うんだよ

奥方まで。




そうこうしながら、寺務所兼住職の

住まいがある寺の庫裡に着いた所で

俺の携帯が鳴った。「あ、ちょっと

スンマセン。岸田、後は任せた!」


俺は後を岸田に任せて寺の本堂横に

移動する。携帯の表示は 田坂優斗。

筧の方はヤツに任せてある。俺が

目下イチオシ評価してる男だからな。

巨大法人なんて魑魅魍魎、俺には

到底、御し難い。そんな世界で上手く

バランス取って渡り歩いてる田坂は、

ホントマジで尊敬する。


「今、奥方と『法照寺』居んだけど。

え、来ンの?又?いや…別にいいけど。

でも、どうした?ああ、まあ。今どこ?

え?もうこっち向かってるってか。

『法照寺』にいる。徳永弁護士もだ。

OK、早く来いよ?」



優斗のヤツ…何で又、態々こっちに

来るんだよ?







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