第39話 衛星会議

まさか、本当にやるとは。

あの大馬鹿野郎。折角、蒔田部長に

頼み込んで何とか神田専務との

面談に漕ぎ着けたっていうのに。

何で専務、脅すんだよ?

      しかも 怪談 で。

神田専務、微妙なカオして笑ってたけど

もう俺、暫く会社に行ける気がしない。

明日のゴルフも明後日の接待飲みも

キャンセルした。急に熱が出た、って

理由は嘘だけど、頭が痛いのは本当だ。


その 頭痛の原因 が今、俺の部屋で

何やら飯を作ってる。明日は休日だ、

そんな理由で態々、後輩の岸田までも

呼びつけて。


 もう一度言うが、俺の部屋で、だ。




「すみません、田坂さん。僕まで急に

押しかけちゃって。」岸田悠輝が酷く

申し訳なさそうに言う。多分、コイツが

目下最大の被害を日常的に被っている。

そう思うと何だか気の毒になった。

「いや。お前も あんなの が先輩で

本当に気の毒だよな。」「いえ。」

「アイツ、ちゃんと教えてる?営業の

コツとか。」「自分から学べっていう

方針だそうです。でも物凄く勉強には

なります。本当に藤崎さん凄いから。

僕には一生掛かってもあんな風には

なれそうもないですけど。」

「ならんでいいよ、アイツは何につけ

やり過ぎだ。」



いつもそうだ。アイツの頭の中には

イチ か バチ しか存在しない。

まるで自分の人生丸ごと賭けて、

只その瞬間を楽しんでいるみたいで。


俺は時々、不安になる。



「それはそうと『櫻岾支店』結局

どうなるんですかね。やっぱり筧地所に

売却したいのかな。大事な顧客だし。」

「させねえよ。ホラ、飯出来たぞ。」

藤崎がキッチンから何やら料理らしき

モノを運んで来た。

「一応、神田専務の見解では。筧には

十億で売却する目算になってはいるが

確定じゃねえらしいな。」


怪談であれだけ脅しておいても、

しっかり 商談 も忘れない。そこが

スーパースター たる所以だろうが、

俺には到底マネ出来ない。


「じゃあ『櫻護』がそれ以上で買うなら

貰いって事ですよね?」岸田がそれに

更に載っける。

 ちゃんと教育してるじゃないか、

諒太の奴。存外、コイツも侮れないか。


「契約した訳じゃねぇからな。あくまで

商売だから、その辺はシビアだろ。

ウチとしては買ってくれンなら御の字な

訳で、買収額が高けりゃそっちに転ぶ。

 今日び、下手に案件顧客に便宜図りゃ

叩かれるだけだ。それは一番避けたい

所だろ、コンプラ的にも。

それにしても、あの場所に十億って。

筧のジジイめ、相当にクソイカレタ感覚

してやがンな。」「…藤崎さん、これ

何ですか? 美味しいです。」


何だよ岸田、突っ込まないんだな。

《お前に言われたくねえだろ!》とか。

これも『教育の賜物』ってヤツか?


「ラザニア焼きだ。」「え?何て?」

「だからラザニア焼きだよ。ラザニアと

お好み焼きを合わせてみた。」「…。」

藤崎の作る料理は確かに不味くはない。

寧ろ、凝り過ぎている。


「要は、だ。『櫻護』から提示された

金額は五億。それ以上は難しいらしい。

一応、公益財団法人を標榜してる以上、

国からの援助もある。そこは絶対に

崩せねぇだろうな。」

「麻川住職もご協力下さるそうですよ。

最近ご自身でFXも始めたみたいで。」

「マジかよ。株とかはまぁネットで

やる分にはと思ってたが、ちょっと様子

見てやらねぇとだな。」「余剰資金で

やってる、って仰ってましたよ。原資は

全く手付かずだって。」「すげぇな!」

「それにしたって億は無理です。」

「あの五億何とか使えねぇかな…多分

使っていいと思うんだけどなぁ。」

「法的にどうなんですかね。そもそも

既に死んでる人が口座作っちゃってる

訳ですから。」「いや、それな!」


「…なぁ、諒太。」「あ?」「?」

藤崎と岸田の視線が集中する。何だか

凄い緊張感。居心地悪くなるが、ここ

一応、俺んちだからな?


「お前が専務に打った怪談。あれマジな

話なのか?『開かずの間』の呪いの話。

壊したら祟りがある、ってヤツ。」

「あるだろうな。これでも俺ら結構な

怪奇現象に遭遇してきたから。聞く?」

「…いや、いい。でもなぁ…まさかの

頭領が。本人は知ってたんだろうか?

自分がそんな恐ろしい一族の…。」

「知ってたろ。だからあの本田先生に

依頼したんだ。『櫻護』は頭領の依頼で

設立された公益財団法人だ。」


諒太はそう言うと、何処かにメールを

打ち始めた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る