第38話 カチコミ本丸

あれから俺は、ウチのほぼ顧問と

言ってもいい本田司法書士事務所の

本田先生に面会を捩じ込んだ。

勿論、あの町全体を取り仕切ってる

『公益財団法人櫻護』の代表として、

情報交換と今後の方針の擦り合わせの

為だ。【逢麻辻】の林先生の口添えの

お陰か、それはすんなり実現した。


そこでわかった事が二つある。


一つは『櫻護』にあの店をまんま買収

する用意があるという事。もしウチが

あの店を『櫻護』側に売却すれば話は

丸く収まる。いずれ古い店だ、あの

『護摩御堂屋敷』同様に歴史的建造物と

して保護管理して行くだろう。

二つ目は、あそこにマンションを建設

しようとしているのが、田坂達が絡む

日本屈指の巨大不動産会社『株式会社

筧地所』だ、という事実。目下、他の

大手不動産会社を合併吸収しようとして

いる例の、アレだ。

 どうやら会長の筧俊作の税金対策で

検討している様だが、あんな辺鄙な

土地に一体どういった利益があるのか。

サッパリわからねぇが、まぁ、そこら辺

ヒトの事は言えないからな。



田坂のヤツは完全に気勢を削がれて

大人しくなった。元々、よく突っ走る

俺を 止める か 見守る か、

それとも ネタにする か。そんな

スタンスのヤツだ。

『頭領の実のお袋さん』イコール

『護摩御堂雪江』って情報で相当に

混乱したしショックも受けたんだろう

無理もねぇ。



ヤツも又、頭領には多大な恩義がある。







そして俺らは今、本店の上層階にいた。


詳細は差し控えるが、所謂、役員等の

執務室のあるフロアは、面白い事に床に

矢鱈と毛足の長い赤い絨毯が敷かれてて

変な感じに沈み込む。

 エレベーターを降りた瞬間、膝から

頽れそうになったのは、まぁご愛嬌だ。


店舗削減計画の責任者、神田専務の

執務室は、フロアの中でも最も奥の

良さげな場所に位置している。

 そこに俺らはカチコミに来ていた。

少なくとも俺はそのつもりで此処に

いる。まさに命の遣り取りだ。俺の

バンカーとしての命、の。


田坂の上司にあたる蒔田統括部長の

取り計らいだが、コレも又部長なりの

利益計算でやってる事だ。別に謙る

必要は少しもねえ。

 俺の横で、田坂が酷く落ち着かない

顔をしているが、

オマエには何のプラもマイもねぇから

心配すんな。「……。」俺はヤツに

目で頷いた。


「失礼します。」田坂が二度程、扉を

ノックする。「どうぞー!」ヤケに

明るい声が返ってきて、今度は田坂が

逆に俺に目配せする。「…。」そして

木で出来たドアを開けた。



「いやぁ、会いたかったんだよ。

藤崎諒太君!田坂君とは前に何度か

会ってるけど、君に会うのは御初だ。」

声の感じは若いが、多分、頭領が

生きてたら同年代だろう。

「この度は、お忙しい中貴重なお時間を

賜りまして。御礼申し上げます。」一応

御礼は述べる。

「とんでもない、ずっと蒔田や飯塚には

やんわり会いたいなあ、って言い続けて

いたんだ。本来、前途有望な若手とは

もっと頻繁に顔を合わせてクローズな

関係を築いておきたいというのが私の

考えでね…って、そんな所に突っ立って

いないで。」「はい。失礼します。」

 飯塚って、誰だっけ…?あ、関東中央

エリア長そんな名前だっけ。そういや

俺、一度も会った事ねぇわソイツ。


促されるままに俺らは革張りの応接

ソファに腰掛ける。

「…で、どう?最近は。田坂君は今、

大きな仕事を抱えているけど、あれが

上手く運べば巨大な金が動く。しかも

元々、筧さんはウチの顧客だから、

今後の個人への深耕も図れる。

 藤崎君は今『櫻岾支店』で頑張って

くれているけど、本来君は富裕層PBの

力量があると聞いている。こっちに

戻ったら、それなりの仕事を用意して

いるから、お楽しみに。」

神田専務は一頻り喋ると、漸く満足

したように口を閉じた。


「矢張り『櫻岾』は削減ですか?」

「ああ。それは何年も前に決まって

いた事だ。」笑顔だが、目が全然

笑ってねえ。そっちもマジなら

話は早えわ。

「あの店に『開かずの間』があるの、

専務ご存じです?」俺は大体が直球。

「え?『開かずの間』?!」何で

嬉しそうに言うんだよコノ親爺は。

「そうです。かつての所有者がそこで

呪いの精製をしていましてね。いや、

地主の檀那寺の御住職から伺ったんで

本物ですよ。」「…呪い?」「はい。

代々当主の首を切断して手鞠にする

『作業場』だったと聞いています。

俺含めて店のみんな幽霊見てますし、

潰したら護摩御堂の女達が祟るって。」

「……。」神田専務、固まる。


そして、田坂が横でスゲェ顔して

俺の事を見てる。

それが何となくわかった。


    もしや俺、




ちょっとやらかし過ぎ…た?











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る