第33話 太白星激震

同期の田坂優斗からの呼び出しが

あったのは、俺的には最優先事項の

『櫻岾支店顧客リスト・改』の整理が

漸くひと段落した時だった。


理に適わない運用商品を只諾々と

持ち続けていた無辜の顧客にイチから

面談してマトモなポートフォリオを

作り上げる 修復作業 は、ルール上

損切りやら乗換えやらの面倒な局面も

あったが、顧客納得のうえ漸く完了。

 店の予算よりも余程そっちの方が

気に掛かっていた事だ。

       何せ、気持ち悪ぃから。


そして内心それ以上に気になっていた

例の『護摩御堂一族』の呪われた歴史は

結局、側から入る余地などない程に

途方もなく複雑怪奇なものだった。


 しかも今でも例の魔物は『法照寺

預かり』になってる、って訳だ。


結界によって外には出られないとか

言うが、それもマジな話どうなんだか。

話を聞く限り、そんな緩いヤツでも

ねぇだろう。

 古来から『邪悪』とか『悪魔』とか。

日本で言うと『妖魅』とか『物の怪』

『鬼』とか。呼び方は色々だろうけど

結局は『よく分からないモノ』且つ

『善くないモノ』だ。それが今も普通に

そこら辺を跳梁跋扈している。


只、俺らは ソレ に全然気付いて

       いないだけで。


多分【櫻岾】だけでなく、日本全国

津々浦々、そういった類のモノは

存外いるんじゃねぇかな。


『護摩御堂』の一族は、それに敢えて

関わり合った。能動的に長期に亘って。


法照寺の麻川住職の話によれば、彼等は

『咒』を以て代々ソイツと渡り合ったが

どちらかと言えば『契約』に近いのかも

知れない。ソイツに 魅入 られ、

『護摩御堂家当主』と認められた者は



      必ず『首』を納める。





週末という事もあってか、六本木の

煌びやかな街には人々が溢れていた。

 鄙びた【櫻岾】から来た身には

喧騒が少しだけ居心地の悪さを

齎してくる。


田坂と会うのは大体が三、四ヶ月に

一度が精々で、それこそ先月会った

ばかりだ。

 お互いそれなりに忙しい身では

ある上、都心エリアの法人営業部に

所属している田坂は週末どころか

土日もゴルフやら何やらで引っ張り

出されているのだろうに。

「……。」腕時計を確認する。幾分

待たされているが、それ自体は然程

気にはならなかった。


 嫌な予感、てのは何だろうな。



「諒太、悪い!ホント待たせた!」

四十分ほど待った頃、漸くヤツが

慌てて店の中へと入って来た。

 今回は普通に待たされる貌だったから

特に文句もナシだ。「お前の奢り。」

「OK。」田坂は例の如く早速スマホで

注文を始める。

「で?何だよ急に。ついこないだ

会ったばかりじゃねぇか。」「駄目?」

「駄目とか…いや、別に駄目じゃねえ

けど、ってか何だよ?お前マジで薄ら

キモいんだけど。どうしたよ?」


こういうシチュエーションは苦手だ。

良かれ悪かれ次に何等かの衝撃は

喰らわされる。いやに勿体ぶる田坂の

様子から悪い事じゃなさそうなのが

せめてもの救いになるか。いや、

それは単なるコイツの主観だろう。


「お前さぁ、いい加減話に入ったら

どうなんだ?」少し苛っとして言う。

「あぁ、まあオーダー来てからな。

大体いつも中断するだろ?」「…。」

田坂の機嫌がヘンに良いのが又余計に

腹立たしい。俺が気イ長くねぇの、

一番よく知ってるだろうに。


果たしてオーダーが来ると、又しても

田坂が自分のグラスを俺のに重ねた。

「で?何だよ…優斗てめぇ。もしや

例のTOBの進捗自慢か?」それなら

勿体付けたりしねぇだろ。そもそも

コイツは自慢なんかしない。寧ろ、

ヒトの事で話題を作る厭なヤツだ。


「俺さ、こないだ本店行ったんだよ。

上との打ち合わせで部長に着いて。」

「おう、そんで?」「その後、又例の

飲み会があってさ。そこで神田専務に

お前の事、聞かれたわ。」「俺?」

「そう、お前。」何だか雲行きが変に

なって来た。「どうして俺だよ?」

「注目されてんだろ『櫻岾』。諒太が

異動してから快進撃で嫌でも目立つ。

俺がお前の同期だって部長が余計な事を

ぬかすから、あれこれ聞かれた。」

「アレコレって何だよ。守秘義務とか

知ってるよな?お前。」どうせ、

一年坊主の頃のアレコレを面白可笑しく

話したんだろう。聞かなくても何だか

ムカつく。


「なぁ諒太。お前、本部が推進してる

店舗削減計画、知ってるだろ?

それに『櫻岾支店』も該当するって。」

「………は?」「だから、店舗が

無くなる、って。次は出世して別の

デカい店に栄転になるぞ!良かったろ

お前の力量に見合った規模の……」




『櫻岾支店』が削減対象…?


      そんな、馬鹿なこと。




あまりの衝撃に、俺の頭ン中は

真っ白にハレーションを起こしていた。













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