第24話 太白星と熒惑星
それにしても。あの『喪服女』の
お袋サン…とんだ『遣り手婆ァ』じゃ
ねぇか。
あれから。麻川住職と林司法書士の
話を突合させて、漸く俺は一つの
仮説 に辿り着いた。
【櫻岾】とその周辺は、まさに全てが
『護摩御堂家』の土地だった。そして
咒家系 として代々『魔物』を封じて
来たものが『魔物』を残して途絶えて
しまった。
後の『護り』を町作りに託すなんざ
どんだけの政治力なんだよ? しかも
先立つ物も、たんまり持ってた訳だ。
【櫻岾】は、あの線路を結界として
造られた、所謂『封印都市』だ。
一族の趨勢なんか、俺にはよくは
わからねぇけど。
良かれ悪かれ。
変わらねぇモンなんて一つもない。
人の『理』に於いては。
で、俺は又しても六本木の例の
カフェバーで 奴 を待っていた。
そもそも、俺らの初任店も此処、
六本木だった。割と大手の法人顧客が
多い土地柄だ。直ぐに周りの影響を
受ける田坂なんぞはコレで法人営業に
腰を据えた様なモンだ。
斯くいう俺も『頭領』に憧れて、
彼が歩いて来た道程を追いかけている。
「お待たせ、っていうか。諒太いつも
早いよな?俺、別に待たせてもないのに
待たせたみたいになる。」
田坂優斗が店に入って来るや、速攻
文句を言いつつ席に着く。
よくよく考えなくても、コイツも又
切っても切れない間柄だった。
所謂、戦友。
「…何か『櫻岾』相当ヤバいだろ。」
いきなり、どうした?
「ヤバいって何がヤバいんだよ?」少し
ムッとした顔で聞いてやる。
「予算達成、って。まだ何月だよ今?」
田坂は笑いながら、スマホのカゴに
アレコレ入れて行く。
「あ、海老食べたい俺。」途中で覗き
込んで、勝手にカゴに追加する。
「もう、大概『スーパースター』こっち
戻って来るんじゃないか?」
「冗談だろ、俺まだ何もしてねぇし。
それに結構あれで気に入り捲ってる。」
「…相変わらずだな諒太。そんなに
向こう、楽しいネタでもあるのかよ?」
田坂はそう言うと、やや声を潜めた。
「…ネタといえば。お前に言われて
調べてみた。あんまり他所の案件を
検索してっと、監査で挙げられるから
そこまで詳しい情報はアレだけど。」
そこで又、注文したものが運ばれて
来て、押し黙る。
「先ずは乾杯。」田坂が俺のグラスに
自分のグラスを軽く当てる。
そして続ける。
「言っておくけど諒太。『頭領』が
絡んでなければ俺は全くノータッチだ。
それだけは先に言っておくぞ?」
「そんなん、分かっとりますがな。」
頭領のマネして応える。
「例の公益財団法人、な。実体は、
よくわからん。」田坂が投げやりな
態度で言う。
「よくわからん、って何だよ。」
「複数の司法書士やら弁護士が名を
連ねてる。しかも筆頭は何と我らが
本田司法書士法人事務所の本田先生。」
「…何だよソレ。」
「だから、わからんて。わかる事しか
言わないからな俺は。」蓋し、正論。
「まあ確かに。林先生、本田先生とは
同級生とか言ってたからな。でも、
言ぅて、あんな辺境の公益財団法人の
理事に名前を連ねるか?しかも筆頭。」
俺は無駄に食い下がる。そう、もう
完全に無駄足だってのは解っていた。
あの『遺言書』にあった頭領の名前。
もう既に何らかの措置が採られて
いるのは如何にもだ。だが、一体何故
『護摩御堂雪江』から名指されなきゃ
ならなかったのか。
「諒太?」田坂が、俺のグラスにもう
一度、自分のグラスを軽く当てる。
どうやら茫っとしていた様だ。
「あ、悪ぃ。何だかな。何であんな
訳の分からん『喪服女』から頭領、
資産承継名指されなきゃなんねぇの?
まぁ、貰って損もねぇかもだけどよ
奥方が。でも、何で?」
バックに日本屈指の司法書士法人の
代表等が控えてんだ。
「俺に聞くな。」田坂は笑いながら
パスタをフォークで軽く刺す。
「奥方の実家、とかならまだ分かるが
奥方の旧姓 田代 だもんな。」
「何で諒太が旧姓とか知ってんだよ!」
「昔、遊びに行った時に。奥方の実家の
お袋さんとお姉さんて人、来てた事
あったろ。優斗も居た筈だぞ、メッチャ
緊張して飯食わして貰ったろうが?」
「記憶力すご。覚えてはいるが、よく
苗字まで。お前、怖い!」「……。」
ふと、何だか分からない閃きが。
俺の脳裏に、ずっと引っかかっていた
一番の 謎 と共に。
でも、そうなると……俺は。
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