第16話 司法書士

【法照寺】での定例『怪談会』は今後も

引き続き絶対に参加するとして、だ。

大分、地域の詳細がわかってきた。

 『護摩御堂』家 っていうのは、多分

ある種の 咒家系 だ。

『化け物寺』に一体 何 が封印されて

いるのか、それはそれで心底俺の興味を

唆るが…今は先ず、仕事優先だよな。


それにしても隣で聞いてた岸田の野郎、

何でいきなりぶっ倒れるンだよ。


折角の楽しい『怪談会』が変な空気に

なったじゃねぇか。ハナシの終わりに

読経で締めるなんざ今後のビジネス展開

案外、有望だと思わねぇか?

 後はどんだけヒトを集めるか、だろ?

何か色々と手ぇ貸してやりてぇ…それで

ウチに融資させて欲しい…って駄目かな

宗教法人だからなぁ…。


   いやマジで!超、楽しい‼︎


丸の内にいた時にはそれこそ数字至上の

単純ゲーム感覚 だけ だったのに、

まさか、こんな鄙びた辺境の地に

どんだけ楽しい案件が気持ちよく眠って

いる事か。


この俺の 素敵な都落ち って、一体

何処の何方の思し召しなんだ?

そっちも相変わらず見えて来やしない。


まあいいか、楽しけりゃ。





あれから、麻川住職は直ぐに動いて

『護摩御堂屋敷』の管理費用の振替を

ウチに変更してくれた。

 そこで初めて、直接『護摩御堂』の

生き残りから依頼されている司法書士の

名前が割れた。

      林恒蔵 司法書士事務所


駅前にあるのかと思いきや、ぐるっと

電車で八駅か其処ら行った所の、個人の

司法書士事務所だった。

 このテの司法書士は代々世襲のように

やってる所が多いから『護摩御堂』とは

長い付き合いなのかも知れねぇな。

しかも全店探してこの林恒蔵名義の

個人口座があるのがわかったんだが…。

 だが、それだけだ。

ウチの勘定じゃない全くの他店、しかも

埼玉にある店だから、それ以上はもう

どうしようもない。


実質、手詰まり状態だった。






【櫻岾支店】の山桜も、もう既に蕾が

綻びそうで、気の早い花はチラホラと

咲き出している。

 思わず溜息を吐くほどに魅力的なこの

店の佇まいを、俺は多分一生忘れない。



そんなこんなで。


「今、戻りました。」言いながら店に

入ると、何やら守本が事務課の畠山に

詰められていた。


「いや、だから!連絡取ってるけど全然

繋がらないんだよ。」守本が、この世の

終わり、みたいな顔で喚いてる。

 何やら揉め事の様だが、何だろ…。


「どうかしたか?」まぁどうでもいいが

一応、聞いてみる。


「あ、藤崎さん!守本さん、お客さんの

免許証を返すの、忘れてるの。」

畠山が言う。

 まぁ、極めて稀にあるあるのヤツか。

「これ、今日中に返さないと。こんなの

預かれないですからね?」


そりゃそうだろ。本人確認の現物なんぞ

絶対、預かれねぇだろ。

「とっとと返しに行けよ?てか、どうせ

近所の客だろ?」

「それが違うんですよ。まぁ、連絡つき

次第、返しには行きますよ?勿論。」

守本が偉そうに言うが。


      ソレ、当たり前だからな?


「何しに来た客?」「あぁ、それが丁度

藤崎さんたち出てたからアレなんですが

【法照寺】絡みの司法書士が法人口座で

投信の積立やりに来たんですよ。

 あそこの住職から聞いたとかで。まあ

振込の手数料も優遇されますしね。」


「はっ⁈ それ、何処の司法書士だ?」

「え?あ…林恒蔵司法書士事務所。」

「…マジか。」

          ビンゴ


まさかの客廻りしてる時に、いきなり

来るとは。まぁ、アポ取りとかいらねぇ

ぐらいスカスカな混みっぷりだからな。

…いやぁ、残念過ぎ…いや、いやいや!


「守本、免許証返しに行くんだよな?」

「はい、取り敢えず連絡入れてからと

思ってるんですけど。」

「俺も行く。」「…え。いえ、これは

自分が回収するミスですから。」

案外コイツ、マトモな感覚してんだな。

「それはそれ。俺は司法書士に興味が

あるだけ。お前は免許証返せばいいよ。

俺、無駄話するから。」「はぁ。」



案件化するには前途多難だ。でも、

俺の興味が 降りる 事を許さない。


それ以上に何かの意思めいたモノが

『護摩御堂』から目を逸らすのを

決して許さない。



何かに導かれた奇妙な巡り合わせ。



  そんな気がした。









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