第14話 妖怪居酒屋

全く、最近の若ぇ野郎は。

…とか言うと何か俺、急にイケオジに

なった気がする。ウソ。


自分でやってみねぇでどうするよ?

ヒトが話してんの見るのも、そりゃあ

勉強にはなるし、事前の準備は勿論

大事だから『机上空論』を否定は

しない。でもな、この仕事は出たトコ

勝負なんだよ。

        岸田のヤツ。


折角の檜舞台を用意してやったのに

何で俺の顔、チラチラ見るんだよ。

客はそういうトコ見て値踏みするんだ。

最初 こっち側 に持ち込まないで

どうすンだよ? 

 俺なんか一年坊主の頃は矢鱈滅多と

先走りして、頭領から死ぬほど怒られ

捲ったからな。でも結局は、全部

ケツ持ってくれたっけ。


でも頭領のこと、田坂と一緒になって

『オヤジ』とか『組長』とか呼んでて

コンプラ室から異例の お叱り 受けた

時にゃマジで絞められたな。

《お前ら俺をクビにしたいんか!》って

怒鳴られたの、妙に懐かしいよ。


        まあ それはそれ。



法照寺の住職、自分用の個人口座と

積立NISA、更には宗教法人口座も

作ってくれたのには正に御の字だった。


『護摩御堂屋敷』の維持管理費用は

定期的に 司法書士事務所 から振り

込まれるって言っていた。ならば

法人口座の出入から、それが何処の

司法書士なのかは判明するだろう。

 だが、そこから現在の所有者にまで

辿り着くかといえば、限りなく無理に

等しくなる。司法書士の守秘義務は

長閑な寺のそれとは雲泥の差だろうし。

 それに、そもそもウチがそこまで知る

必要性があるのかないのか。


もし、所有者がわかったら何某かに

持って行けると踏んだまでだが、まだ

ゼロベース案件だ。そこに商機があるか

どうかはわからない。寧ろ【法照寺】の

資産継承の方が余程イージー案件だろ。


…って事で。俺らは櫻岾駅前にある例の

居酒屋『妖怪屋敷』にて 作戦会議 と

洒落込んでいた。

 今回は、櫻岾支店長の小田桐博康氏も

同席している。


「…じゃあ岸田君は事務の手順はもう

完璧ですね。」存外このヒト、鬼かも

知れねぇ。商品の説明して必要箇所に

色々書いて貰って約定して…って単純に

思えるが、非課税とかも絡むから、

コレ書類だけでもかなりあるんだよな

紙だと。

「あ、いや…それは。」案の定。

岸田、言い淀む。

「そのうち嫌でも覚えますよ。それに

トレーニーですから俺が検認します。

お前はガンガンやれ。兎に角、言うの

タダだから。やるやらねぇは客次第。」

「は、はい!」威勢だけはいいな。


「それよりも、本当に藤崎君には

感謝です。この分なら余裕で予算到達

するだけでなく、今までお座なりに

なってきた注力項目もバッチリです。」

支店長が珍しく饒舌だ。それもそれ、

幽霊口座作成の地獄から有力法人口座

獲得の天国への返り咲きだからな。

「AML対策室、大丈夫でした?」

「今の時点で、何も言っては来ない。」

「そりゃ何より。護摩御堂雪江サンて

案外、金融リテラシー高いのな。」


「でも、何で今になって口座なんか。」

畠山が梅サワーに箸を突っ込み、呟く。

「そりゃ見たかったんじゃないの?

藤崎さんの事。」守本が付け加える。

「何で俺だよ!」と、殴る真似して

退散させる。こいつ、マジうぜぇ。


「『護摩御堂』家の係累がいるのは

確かですね。藤崎君たちが住職から

聞いた話ですが、屋敷の管理に複数の

関係機関を経由させるという点にも

高度な法的リテラシーが感じられる。

個人的な興味はありますけどね…。」

小田桐支店長は、そう言うと、ふと

黙り込む。


大体、現物で五億も置いとくぐらい

どうって事ねぇんだろ。あの不動産

入れたら、なんて…想像するのも

空恐ろしい。


「…あの。」岸田がおずおずと。

「何?」「あ、いえ。『護摩御堂』家

法照寺が檀那寺なら、御住職もしか

すると、護摩御堂雪江さんと面識ある

かもしれないな、って。」

「おお!確かに。まだ若院だとしても

護摩御堂雪江の葬儀を仕切った時には

寺にいたかも。ナイスだな、岸田!」

妙なトコだけ素晴らしいんだよ、この

一年坊主は。



「ちょっと踏み込んでみますか。」



俺のワクワクは止まらねぇな、暫く。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る