第11話 嗤う太白星

支店長と藤崎さんが金庫室へと消え

僕らは、と言っても殆どは事務課の

人達が当日の勘定データを手分けして

追跡調査し始めていた。

 実際、僕は只何もする事がなく、

手持ち無沙汰にそれを見ていた。


藤崎さんはキレッキレの都心エリアの

トップ営業だと聞いてはいたけれど、

さっきの 照会 とか。

事務課の人達より速くて的確だった。

 そんな所も含めて、やっぱり彼は

『スーパースター』なんだろうなと、

僕は結局、置いて行かれながらも一人

感心していた。



「何これぇ…‼︎ イヤぁぁあ…‼︎」


そんな事をぼんやり考えていたら、

又しても畠山さんの絶叫が響いた。

 だが、それは彼女だけでなく

川辺さんや、もう一人のテラーの

原さん、それにロビーの橋本さんも

共鳴するみたいに騒ぎ始めた。



「どうしたんですか?」畠山さんの

席のパソコンに目をやると、そこには

『本人確認資料』のデータ画像が

表示されていた。


画像として取り込んだ『運転免許証』の

コピーが展開されていたのだが。

「…えっ…何これ、何で。」思わず僕も

絶句する。『護摩御堂雪江』のものには

違いないのだろうが、免許証の女性は


 『喪服』を着ていた。


「運転免許証って、喪服で撮っても

いいのかな。」

「そういう問題じゃないッ!それに、

この人…岸田が法照寺の墓地で撮った

心霊写真に似てない? 」畠山さんの

指摘に、僕は思わず業務携帯を机に

取りに行く。そして写真画面を開いた。


「…え。」確かに、護摩御堂家の墓を

撮った一枚には『喪服の女』が写って

いた筈だ。

でも探しても探しても、女性の姿が

ない。

    「…いなくなってる。」



そんな事をしていたら、金庫室から彼と

支店長が、台車に大きな木箱を載せて

戻って来た。



「ナニ騒いでんだよ。何か面白い事でも

あったのか?」藤崎さんが尋ねる。

「藤崎さん…‼︎ これ見て下さいッ!」

畠山さんが僕を押し退けて、パソコンの

前を藤崎さんに譲った。


「うぉ…ッ!スゲェな!まさかの

本人確認に運転免許証使ってんのかよ!

クソ受ける‼︎」藤崎さんは笑い出した。


 それ、笑うとこ?


「…しかも喪服って…ガチ過ぎる!

俺、このひと見たことあるわ、電車と

岸田が撮った墓地の写真で!

 だけと、お化けって車運転すんの?

偽造だったらシステムがハジくから

マジもんの免許証って事だ!支店長!

これ!マジですよ‼︎ ははは」


常々、僕はこの人を『物凄い人』だと

思っている。思ってはいるのだが…。


そう思っていたら、何と今度は

小田桐支店長まで笑い始めた。勿論、

彼の様な 馬鹿笑い ではないものの。


「…所定の手続きに則って開設された

口座という事だね。となればもう

我々には何も出来ない。現物もあった

事だし、後は皆で手分けして札勘して

それで合えば。」


「え⁈ 現物、あったんですか?」

畠山さんが驚きの声を上げる。

「おうよ!今、台車で持って来た。

推定、五億あるから半端ねぇが、今から

皆で数えるぞ!」藤崎さんが応える。

何故か明るい。さっきのお通夜みたいな

雰囲気とは大違いだ。



「…只今戻りました。って、皆んな

何やってるんですか?」

丁度、外から守本さんも戻ってきた。


「守本さんも手伝って下さいよ…!」

「今帰ってきたばかりなんだけど。」

「…いいから守本、お前も来いよ!

小田桐支店長が自ら札勘してんだぞ?」


  彼の一言は強い。


「え、支店長…本当だ。すぐ行きます!

札勘?って…何この旧札の山。」


慌てて参入した守本さんが、目の前の

お札の山を見て驚くが、みんな黙々と

手元の作業に集中していて半ば無視だ。

「…これ、機械で数えられないの?」

守本さん、更に畠山さんに言うが。

「旧札は無理。」素気無く却下される。



通常、一束が百万。それを十個重ねて

一千万の大束になる。更にそれを十個で

一億円。それの五倍もあるのだ。



藤崎さんは黙々と両手を華麗に動かす。

「……。」思わず、彼の手元に目が吸い

寄せられて行く。

なんて綺麗な 読み方 するんだろう。

僕はこれが大の苦手なのだ。

 もう現金なんかの時代じゃないかも

知れないけれど。 

 でも、彼は物凄く格好良くて。



「ナニ見てんだよ。手ぇ止まってるぞ?

とっととやらねぇと、いつまで経っても

帰れねぇからな!」



 彼はそう言うと、煌びやかに笑った。







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