7・苦労のあとの絶景は最高だ
気を取り直して山道を進んでいく。
PK?うん。なかったことにしよう。
その後は穏やかに自然を堪能しながら進んで行って、時々現れる敵(勿論プレイヤーではなく普通のモンスター)をサクサクと誉くんが討伐してくれた。
私は何もせず大鎌を握りしめているだけだというのに、誉くんとパーティーを組んでいるという理由だけで経験値が入ってきているようだ。何だかズルをしているような気がして若干肩身が狭い。
「サイさん、そろそろ着くよ」
誉くんがそう教えてくれる。
これまで周りに山ほどあった木々はなくなり、すごく開けた場所に出る。少し歩くと、そこには絶景が広がっていた。
「わあ……」
地上から上にはびっくりするほどの綺麗な青空。吸い込まれそうなほどの深い青色と、眩しいくらいの白い雲。湖水地方に着いた時に見た空も驚くくらい綺麗だったけれど、周りに何もないことで更に際立って美しく見える。
そして何よりすごいのが、地上。澄みきった湖が鏡のように、一面青空を映し出していた。
「ウユニ塩湖?」
ボリビアに実際にある絶景が思い浮かぶ。実際に見たことはないけれど、テレビや写真でもよく見掛ける、とても有名な場所だ。
「そこがたぶんモデルだと思うよ。一応、名前はユーニ塩湖ってぼかされているけど」
ウユニ塩湖とユーニ塩湖……ぼかされているのか、それは。ほぼそのままじゃない?
とにかく、すごく綺麗。それは確か。
足を進めると、パシャっと水が跳ねる。水深は五センチほどしかなく、とても浅い。だから湖といっても、歩いて進める。
「すごい、空の中にそのまま入ったみたい!」
どんどん進み塩湖の中ほどまで行っても、水深は浅いままだった。
風もないから、私たちが動いた時の波紋だけが、塩湖に映る空をぐらぐらと乱していく。足を止めればすぐにまた綺麗な空が映し出される。
結構山を歩いてきたからか、ユーニ塩湖にいる人は少ない。私たちの他にも数組いるけれど、塩湖自体がとても広いから、まったく気にならないほどだ。
「サイさんなら喜ぶだろうなって思った」
はしゃぐ私を誉くんは微笑んで見守ってくれている。
ユーニ塩湖が綺麗なのは勿論なんだけど、この一面の空模様に囲まれている誉くんもものすごく絵になる。何せ姿かたちがかっこいいので、このまま切り取って写真に残しておきたいくらいだ。
「端から端まで、歩いてみようか?結構広いよ」
「うん!」
誉くんの提案にすぐに頷く。水平線が見えるくらい、一面が空に見えるくらいの広大な湖だ。歩いてみたら確かに時間は掛かりそうだけれど、それよりも折角来たのだから堪能し尽くしたい気持ちの方が強い。
パシャパシャと歩くたびに水紋が広がっていく。どこを歩いても浅いから、水の中を歩いているといっても全然気にならない。
どこまで歩いてみてもずっと景色は美しい。
こういう自然の景色って実際に旅行に行ったら、現地の天候とかによって見れなかったり、見れても最高の状態ではなかったりもするだろう。けれどここにあるのは実際の景色ではない。だからこそ常に最高の状態を見ることが出来る。
とはいえ、やっぱり実物は段違いなのだろうけれどね。そんなにポンポン海外旅行なんて行けるものでもないから、行ってはみたいけど難しいなと思う。
「そういえば誉くん。ここって湖水地方でしょ?」
「そうだよ」
「それなら、実際に湖水地方にあるものも、ここにあるの?」
実際の湖水地方は、イギリスの国立公園だよね。その地域全体の景色が美しくて有名で、湖も多くあるはず。
「うん。勿論」
「そうなんだ!そっちも行ってみたいなあ」
「転移陣で着いた街のすぐそばにあるよ」
にっこりと笑って誉くんが話す。
街のすぐそばにあるのか。それなら初冒険は安全面も考慮してそっちでも良かったのでは……?
まあ、いいか。深く考えてはいけない。
ユーニ塩湖はユーニ塩湖で綺麗だし、なかなか見ることの出来る景色ではないしね。
「あっ」
「どうしたの?」
ふと思いついて声を上げてしまったけれど、誉くんはすぐに反応してくれた。大声ではなかったから驚いた様子はなく、不思議そうに首を傾げている。
「そういえば、ここ塩湖なんだよね。ってことは、塩って食べられる?」
そう、私が思い出したのはゆりちゃんとのヤバイフライドポテト計画だ。
そのために良い塩の入手は必須。塩湖の塩ともなれば普通の塩とはひと味違うのかもしれない。
「そのままでは無理だけど、精製すれば食べられるんじゃないかな。作っている塩職人さんがいればだけど」
「ああー……そっかそうだよね。まず作れる人がいないとか……」
流石にユーニ塩湖で塩を作ってくれるNPCはいないのかな。誉くんが知らないということは、少なくともお土産屋さんがあったりして手軽に入手出来る機会はないということだろう。
「サイさんはユーニ塩湖の塩が食べたいの?」
「うーん。正確にはおいしい塩を入手したい、かな。ここのじゃなくても良いのだけど」
「おいしい塩か……。塩職人さんのフレンドはいないな」
なんと誉くん、結構真剣に考えてくれている。相変わらずとても優しい。
にじせかには山ほどの職種がある。それも現実にある職業以外の、ファンタジーなものも含めてだ。人気のある職種ならともかく、塩職人のようなコアな職種ではフレンドとして知り合える確率は低いだろう。
私だってにじせかでは引きこもって農作業ばかりしていたし。塩を作るのが楽しくて仕方ないのなら、同じように引きこもっていそうな気がする。塩の原料採取とかには行くかもしれないけれど。
「今度、友達に聞いてみるよ。にじせかに詳しい子がいるんだよね」
「そうなの?ありがとう!」
誉くんのにじせかに詳しい友達……誉くん自体が詳しいのに、その誉くんに詳しいと言わせている友達ってなんかすごそう。
それから私たちはユーニ塩湖を満喫した後、おいしいマルゲリータを帰りに食べて大満足して無事にお出掛けを終えたのだった。
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