第15話 街への帰還
森から抜けて歩いてくる僕に気付いたのか出発前に注意を促した門兵が僕の帰りを待ち構えていた。
僕にとっては長く感じた事だが、この門を抜けて帰って来るまでに3時間程しかたっていない。もしかしたら、「もう帰って来やがった」とあきれているのかもしれない。
「遅かったじゃねぇか、無事か?その様子だと魔物とは出会わなかったみたいだな。運のいいこった」
僕が思っていた事と反対の事を言う、それに魔物と遭遇しなかったと見当違いなことまで言い出す始末だ。確かに僕の体感時間で言えばとても長く感じる時間だったが、実際の時間経過は3時間程度、それは間違いないはずだ。僕が門兵の立場だと、さっき出て行ったのにもう帰ってきたっていう感覚になるに違いない。なんだこの違和感は。もしかして......。
「......まさか、森は時間の流れが違うのか?」
「何言ってんだ。大丈夫か?もしかして足滑らせて頭でも打ったのか?」
失礼な奴だ。大丈夫か?とは僕の方が言いたいセリフだ。「遅かったじゃねぇか」っていうから深読みしてしまったんじゃないか。ならどうして、遅かったってなる?......っは!わかった。
「もしかして、3時間が長く感じるほど僕に会いたかった......?」
「なーーーに言ってんだ?!心配してやってんだろうが!!」
「びっくりした。ってきり僕に恋しちゃったのかと思ったよ」
「んなわけあるか!」
この門番は人が良いらしい。バカな言い合いにもちゃんと反応してくれる。門番とのやり取りでやっと町についた。帰ってきたという実感がわいて。死の恐怖から開放されたのだと僕は認識できたのだ。
「ははは。冗談だよ。安心して、気が緩んで、つい......」
「......。森は恐ろしかっただろう」
僕は、静かに頷いた。
「それで、ちゃんと収穫はあったのか?」
僕は、体をずらし、引きずっていたゴブゥーの干物を見せる。
「なんじゃ?!こりゃ?!ミイラか?!」
「ゴブゥーの干物だよ。襲われて倒した」
門兵が信じられないといったように驚愕に目を見開き、ゴブゥーと僕を交互にみる。
「意味がわかんねぇ」
「僕の眷属が、持ち帰れるようにゴブゥーから水分を抜き取ったんだ」
「そんな事ができるのか。こりゃすげぇな。いやいやいや!それもそうだが。よく無事だったな、とても強そうには見えないが」
マルが自慢そうにプルプルと揺れている。門兵とのやりとりもほどほどに、戦利品を売り払うためにハントギルドに向かった。
建物の中に入ると、朝と同様に受付の人が座っていた。
「あぁ、さっきの。やっぱり森へ行くのはやめたのかい?」
「いや、行って戻ってきたところだ」
「そうかい。行って来ちまったんだね。無事ならそれでいいさね。それで何か見つかったのかい?とりあえず中にお入んなさいな」
僕はゴブゥーの干物を抱え、建物の中へ入る。
「なんじゃいな!それは?!」
「これはゴブゥーの干物だ」
「いやいやいや、意味が分からないよ。干し肉と同じノリで説明しないでおくれ!」
「正直僕も驚いているんだ。森で、ゴブゥーと遭遇して、戦闘になって倒したんだ。それで、持ち帰る為に、僕の眷属がゴブゥーの水分を抜き取ったら、こうなった。なんて説明すればよかったんだ?」
「ゴブゥーの干物。だねぇ......」
僕と受付の人との間に変な沈黙が訪れた。
「それで、これは買い取ってくれるのか?」
「買い取るは買い取るけど、値段に困る代物だねぇ。水に漬けたらふやけるのかねぇ」
受付の人は興味深く品定めしている。その様子を見ていたマルが、『もとにもどすじぇ?』って感じの意思を飛ばしてくる。え?もどせるの?
マルがゴブゥーの干物に近づき、触手で触れれると、水風船が膨らむようにゴブゥーの体が元の状態に戻っていく。先ほどまで干からびていたのがウソのようにピッチピッチのゴブゥーになった。
「なんじゃあああ!これぇえぇぇ!!心臓に悪いさね!」
「これはピッチピッチのゴブゥーだ」
「あんたの説明はおかしいよ。しかし、こんな状態の良いのは見たことがないねぇ、しっかり買い取らせてもらうよ」
「もう一体もピッチピッチにしたらいいか?」
「あぁもう一体あるのかい。それはそのまま干物でもらおうかね。それはそれで、珍しいからね」
「わかった」
「しかし、あんたの眷属はすごいねぇ、こんなのは見た事ないよ」
マルが自慢げに揺れる。
「ほかにも採集したものがあるんだ、見てくれるか?」
「へえ、見してごらんなし」
僕は、薬草や果実の入った袋を差し出した。
「大量だねぇ。状態も良いし、ちゃんと価値のあるものを採ってきてる。全部買い取っていいのかい?」
「あぁ、全部たのむ」
「計算するからちょっと待っておくれよ」
金額は一般家庭が3ヶ月ぐらい暮らせる額になった。予想より多い金額だ。こんなお金を手にするのは初めてだったので嬉しい。これで休暇中の宿の延長料金も余裕を持って払えるので安心だ。
「そうそう、あんたは魔物石はどうするね?」
「魔物石?」
「あぁ、知らんのかい?魔物石っていうのは、魔物の中に必ずある石さね」
「それは価値のあるものなのか?」
「価値はないねぇ......。叩けば壊れるし、特別綺麗な物でもない。ただの石さね。でも形は面白いから、魔物を倒した人は記念に取っておくって人も多いね。狩人の生きた証みたいなものでもあるけどね」
魔物石を説明する受付の人の顔は物憂げだった。きっと、魔物石の数が魔物を倒した数であり、それを自慢するのが狩人なのだろう。言葉の端から想像するに、そうやって生きて最後は魔物に喰われその生涯を閉じたのではないだろうか。
「それなら、とりあえずはもらっておくよ」
「わかったよ」
受付の人からゴブゥーの魔物石を2個と売却代金を受け取り、宿に戻ることにした。
宿に戻ると、どうにかお願いしてお風呂に入らせてもらった。時間外料金でお金を取られてしまったが僕の財布は満たされているんだ。すまし顔で払ってやった。
桶にお湯をためて、魔力を馴染ませマルを漬け置きする。『ごくらくだじぇぇぇ』って感じでリラックスしている。
僕も浴槽に浸かり体をほぐす。
お風呂から上がり、お昼は何を食べようかと考えながらベッドに腰
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