第10話 フーランとの闘い 2


 マルとフーランはいい試合だったとお互いを褒め讃えるように労い合う。そこに私恨はなく、楽しかったという感情があふれている。


「ステラ、フーランの回復忘れてないか?」


「あぁ!そうだったピンピンしてるからうっかりしてたよ!」


 ステラがとてとてとフーランに近づき治療を開始する。ステラは体を撫でながら魔力を渡すようだ。「すごくカッコよかったよ」と褒めながら癒している。


 おそらく撫でる行為が魔力譲渡の合図となっているんだろう。撫でられているフーランは気持ちよさそうに目を細めている。


 今回の戦い、マルの動きは素晴らしかった。すべての能力を出しきった戦いだったと言えるだろう。しかし、100%に近いパフォーマンスを発揮しても、あの後戦闘を継続できたとして勝てたかというと答えられない。


 たしかに、フーランは粘着弾で動きの制限をかけられていた。もう一度粘着弾を放てばフーランは被弾して硬直状態になったはずだ。しかし、最初の全力の体当たりでもフーランはすぐに立て直し迎撃してきた。おそらくフーランはマルの攻撃を10回以上耐えることができるのではないかと思う。


 それに対して、フーランの一撃は重い。氷弾にしても、カウンターにしてもその一撃一撃がとてつもない威力だ。マルはあと1回でも攻撃を喰らえば戦闘不能になっただろう。常に綱渡りの攻防だった。


 なので、たとえフーランが粘着弾に被弾しても、粘着弾の効果が切れるまで耐えるだろうし、効果時間を読み間違えたらそのままモロに反撃を受ける危険もある。粘着弾の重ね掛けをすれば多少は拘束時間も伸びるだろうが、マルの粘着弾が魔力による性質変化によるものなのでいずれはレジストされてしまう。自身より強い相手を拘束し続けるなど不可能なのだ。


 拘束の効かないフーラン相手に接近戦を何度も繰り返すとなると絶望的だ。それほどマルとフーランのステータス差は大きい。


 これから、フーランは更に成長して体格も大きくなる。それに対してマルは肉体的な変化はない。そうなると、半年後はもう試合にもならない。......つまり、友人の遊び相手になる事ができない。そんなことでマルを悲しませるわけにはいかない。


 マルはスライムだ、その他の眷属とは根本から違う。おそらく成長の仕方が異なるんだ。眷属の強さを引き出すのは召喚士(サモナー)の役割......。



「スライ君、フーちゃんの治療終わったよ」


「そっか、マルたちも疲れただろうし、もう部屋にもどるか」


「つれないなぁ、やるだけやってバイバイとかそれっていいの?」


「言い方!」


「はは。ねぇ、軽食作ってきたの!一緒に休憩しよ?」


 ステラが腕をつかんで逃がさないぞという態度を表す。身長差があるので近づくとステラは少し見上げる態勢になる。あまり近づかれると対処に困るのだが......。その様子を見ていたフーランが僕の足をぺしっとはたく。それを真似たマルが反対側の足をぺしぺし叩く。


「あーぁ、このまま叩かれ続けると足が使い物にならなくなるぞぉ?」


 ステラがニヤニヤしながら挑発してくる。


「いや、僕の足はもうダメみたいだ、近くに休憩できるところはないか?」


 ステラは声に出して笑った。「肩でも貸そうか?」と冗談を言いながら僕の手を引き、木漏れ日の差す大木の根元に腰かけた。


 カバンからサンドウィッチを取り出し手渡される。マルとフーランの分もある。他にも簡単につまめる野菜スティックやクッキーもあって思ってた以上に豪華で驚いた。


 水筒から入れられたお茶にはフーランが魔法で作った氷が浮いていて、熱を帯びた体を冷やしてくれる。


 サンドウィッチの中身は葉野菜とトマト、チーズにハムとシンプルな物だが、中に塗られたソースがパンのパサつきを抑え、とても美味しい。サンドウィッチを食べている様子をちょっと心配そうに覗いてくるステラに「すごく美味しい」と感想を言うと花咲くように笑った。


「よかった~。ほんと?美味しい?へへへ」


「うん、具とソースのバランスが絶妙だ。これステラが作ったんだよな?」


「そだよ。やっぱ食べてもらうのって嬉しいな」


「普通、作ってもらって嬉しい。じゃないか?」


「そんなことないよ、私が作った料理をおいしそうに食べてくれる。それが頑張って作ったご褒美なんだよ」


「そうか、でも、見られてると食べにくいんだが」


「ごめんね?我慢して?」


「......見るのはやめないんだ?」


「うん」


 僕は視線が気まずくて、早く解放されようと出来るだけ早く食べ終えた。もっと味わって食べたかったが仕方がない。


「あー、もう食べ終えちゃった。ゆっくり食べないといけないんだー。お行儀悪ーい」


 そういうと、ステラはハンカチを取り出して「ソースついてるよ」と口元を拭き取る。あまりにも自然な動作だったので僕は固まってしまった。ステラ、君は僕のお姉さんポジションを狙っていたのか。


「また、作るから食べてね」


「あぁ、作ってくれるなら」


「嬉しかろう?」


「......嬉しい」


「うむ。よろしい。はは」


 冗談を言って恥ずかしくなったのか、照れ笑いするステラ。クッキーを引き寄せ僕のひざもとに置いてひとつ摘まんで小さくかじり一息ついて、肩にもたれ掛かってくる。


「ご飯食べたら眠くなってきちゃった。スライ君もクッキー食べてね」


 言葉の通り、ステラは弛緩して、うとうとしている。時折吹く風は心地よく、ステラの髪の毛を揺らす。さっきまで騒がしかったのがウソのようにゆっくりとした時間だ。


「あはは、ねぇあれ見て」


 ステラの指さす方向には、マルとフーランがいて、フーランの手には野菜スティックが握られている。フーランが「ギャ!」と鳴いて野菜スティックを天高く掲げ、それからマルに野菜スティックをゆっくり差し込んだ。


 マルに差し込まれた野菜スティックは挿入された先から消化され、キレイさっぱり消えてしまう。それが面白いのかフーランが「ぎゃぎゃぎゃ!」と手を叩きながら笑っている。


 マルも『まだまだいけるじぇぇ』といった感じでご機嫌に揺れる。フーランはそれならと、野菜スティックを両手に持ち、遠慮なくマルに差し込んだ。勢いよく差し込んだ先から消える野菜スティックがツボったのか、フーランが地面に倒れ込み手足をバタバタして「ぎゃぎゃぎゃ!」と笑う。マルは得意げに出来る男の高速反復横跳びを開始した。


「ちょっとまっておかしい!なんで反復横跳びなの?!しかも速いし!あはははははは」


 それをみて、僕とステラは腹を抱えて笑った

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