第11話 僅かな希望と探求心

ローゼンワイナー建国譚


 人はかつて身を潜めるように森の中に住んでいた。弱い魔物を見つければ数人がかりで狩り、強い魔物の気配を感じれば息を殺して隠れた。どこにも安住の地はなく、転々とする日々。人は常に絶望を抱えて生きていた。


 その生活を変えたのは一人の少年だった。その少年の名はローゼンワイナー。


 ローゼンワイナーは幼子の時から言葉を喋り、誰も知らない知識を持っていた。ローゼンワイナーは数々の奇跡を起こして人々を驚かせたが、最も驚愕させたことと言えば彼が魔法を使えたことであろう。


 ローゼンワイナーはまさしく神の子であった。


 ローゼンワイナーのチカラは魔物を討ち取る度に強大なものとなった。青年へと成長したローゼンワイナーはついに奇跡を起こす。彼が魔法を唱えれば空から強大な火球が降り注ぎ、魔物を殺し、広大な森を焼き払った。彼が地面に手を当てれば巨大な建造物が生まれ。人は初めて安眠を手にした。彼が祈りを捧げれば大地に命の芽が生まれ、人は初めて飢えを忘れた。彼は神の知識を惜しげもなく伝え、人は初めて知識を手に入れた。


 時折襲ってくる魔物も、ローゼンワイナーの手に掛かればいとも容易く刈り取る事ができる。人は初めて平和を手にした。神の子は全ての民に崇拝され、王となり国ができた。


 ローゼンワイナーは多くの子を授かったが、ローゼンワイナーの子といえど、誰一人として魔法を使う事は叶わなかった。


 ローゼンワイナーが老いを見せた時、束の間の平和がなくなる事を誰もが嘆き、仄暗い絶望が再び芽生えた。


 しかし、ローゼンワイナーはもう一度奇跡を起こした。


 夜空に巨大な大魔法を唱えたのだ。


 夜空に浮かぶ神文字が国全体を覆った後、幾万もの星の雫が降りそそいだ。人々は星雫を受け、その身に祝福を宿した。


 大魔法の後、ローゼンワイナーは息をひきとり、民は悲しみに沈むが、王の間には民を導くローゼンワイナーの預言書が残されていた。


 預言書には、これから生まれる子には神の命石が送られるだろう。命石は共鳴し魂を呼び寄せる鍵となる。命石に真摯なる祈りを捧げよ。


 預言は現実のものとなり、人は召喚のチカラを手に入れた——。




 本を閉じ思考を巡らす。僕はマルの成長に何かヒントはないか図書を漁り、今回はローゼンワイナー建国譚を読んでいた。


 残念ながら召喚について得るものはなかったが、気になる点はあった。まずは、初代国王が魔法を使えたことだ。僕も召喚を得て魔力を意識し始めてから、体内の魔力のコントロールができるようになった。マルへ魔力を譲渡するたびに少しずつ魔力感知能力が鋭敏になってきている。しかし、魔法は使う事はできない。きっかけがあれば僕でも魔法が使えるのか?という淡い期待がくすぶっている。


 そして、なぜか妙に引っかかる点があった。“ローゼンワイナーのチカラは魔物を討ち取る度に強大なものとなった。”という一節だ。訓練や実戦経験を積めば強くなれる。それは技術が磨かれるからだ。でもこの文面は単純にチカラが強化される事を表しているように思える。

 現在でも魔物の討伐は何度も行われている。しかし、魔物を倒した召喚士(サモナー)や眷属が新たなチカラを得て強くなったというのは聞いたことがない。この一節は表現上のものなのか、目にした事実を記しているのかの判断は僕にはできない。


 ......考えてわからない事は試してみるしかない。問題は試すとして、今の僕たちに野生の魔物を討伐することはできるか?という事だ。......これ以上ここにいても仕方がない、戻るか。



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