第7話 秘密の特訓

 マルが嬉しそうに飛び跳ねて戻って来るのを、みんなが拍手で出迎えてくれた。よかったな。


「よくやったぞマル上出来だ」


 これは素直な感想だ。僕はマルには有効打となる攻撃力が備わっていないと思っていたので勝負つかずの泥試合も覚悟していたのだ。でも、蓋をあけてみれば良い試合になっていた。


 試合中に突撃を喰らう場面もあったが、マルなら避けれたはずだ。わざと攻撃を受け止めたのだろう。おそらく打撃によるダメージはほとんどない。それを僕に伝えたかったのかもしれない。試合中も危険な感じが一切なく、余裕すら感じられた。もしかしたら僕が思っている以上にマルは戦えるのだとそう伝えたかったのではないだろうか?


 戦闘中の過剰な演出はマルの性格的な部分もあったが、あれはあれでよかったと思う。みんなが快勝するなか、マルだけが苦戦を強いられているように見えたはずだ。おそらくみんなにはスライムは自分たちの眷属より弱いと印象付いた事だろう。でも今はそれでいい。


 実際にそれは事実だ。特性を無視したステータスではマルは劣っている。馬鹿正直に正面衝突したら十中八九負けるだろう。......まさか戦闘訓練でこんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。戦い方次第ではマルでも勝てる可能性があるんだ。自然と口角があがる。

 例え、たった一割の勝率でも期待してしまうじゃないか。


 足元まで近づいてきたマルに、ポーションを取り出しふりかける。中身は僕の魔力を沁み込ませたただの水だ。これでもマルは魔力の補充ができる。マルは『からだにしみるじぇ』って感じでフルフル震えている。僕はなぜか、お風呂上りに腰に手を当ててミルクを飲んだおじさんが「かー!うめぇー!!」って言っている様子を思い浮かべてしまった。マル、おまえはゆっくり育ちなさい。


「マル君よく頑張ったね!カッコよかったよ!」

「ギャギャ!」


 マルから誇らしい気持ちが伝わって来る。


「皆さん、今日の戦闘訓練は終わりです。次回から魔物の強さを上げていきます。今回の戦闘経験を踏まえて各自で戦い方を研究してください。次回は3日後を予定しています。戦闘訓練の開始に伴い、生徒同士で模擬戦が解禁となります。もし、模擬戦を行う時は致命傷を避け安全を確保した状態で行ってください。しかし、他クラスとの模擬戦はトラブルに発展してしまうケースが多いので禁止です。」


 模擬戦か魅力的だが、考え物だな。眷属の回復が召喚主に依存するのでリスクがある。あくまで、訓練の延長として行わなければならない。模擬戦は普段付き合いのある仲間内だけにとどめた方が良いだろう。


「ぎゃ!ギャギャ!!」


 フーランがマルを指さして訴えてくる。


「もしかして、マル君と模擬戦がしたいの?」


「ギャ!」


「えーっと、スライ君どうしよっか?」


「そうだな......」


 マルを見ると『いいね!やろうじぇぇ』って感じで飛び跳ねている。やる気満々だ。でも......。


「マルもフーランもさっき戦闘したばかりだ、今日はダメだ」


 マルは『えぇあるじぃだいじょうぶなのにぃ』と訴えてくる。そうか大丈夫なのか、だが断る。自分の意見が通らなかったことがよほど不服だったのか、マルは不満だと訴える為にめちゃくちゃ反復横跳びをしだす。リズムが一定だ。マル、おまえは僕のメトロノームだったのか。


「フーラン、明日だ。明日ならマルは万全の状態で戦える。それでいいか?」


 マルの反復横跳びがピタリと止まる。


「ギャ!」


 どうやらフーランも了承してくれたようだ。


「スライ君ごめんね、わがまま言っちゃったみたいで」


「いや、助かるよ。模擬戦といってもケガをするリスクはある。でも、フーランとマルなら大丈夫だと思う」


 フーランとマルが「もちろんだ」というように合図する。きっと二人にとってケンカではなく、一緒に遊ぼうというような感覚なのだろう。


「もちろん勝つつもりで行くけどな」


「はは、望むところだよ。ふーちゃんは強いんだぞ!ね?」


「ギャ!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る