第6話 スライムは戦闘が苦手? 2


 檻から角ウサギが出てくる。フーランは威風堂々と仁王立ちしている。フーランは氷魔法が得意だ。その反面、あまり素早さはない。おそらく近づかれる前に遠距離から氷魔法をぶつける戦い方になるだろう。


 ......そう思ってたのだが、フーランは一向に魔法を放とうとしない。どうしたんだ?しびれを切らした角ウサギが三段跳びで一気に間合いを詰める。角が折られているからと言ってフーランと角ウサギに体格差はほとんどない。勢いのついた体当たりはそれなりの威力だ。1撃で致命傷になる事はないが当たらないに越した事はない。


 だというのに、フーランは初動からまったく反応がない。どうしたんだ?注意深く見てみるとフーランは目を閉じている。......え?寝てる?



「フーちゃん!あぶない!!」


 ステラが堪らずに悲鳴に近い叫び声をあげる。角ウサギがフーランに接触すると思われた時、フーランの目がカッ!と見開いた。


 パン!物体が爆ぜるような破裂音が鳴り響いた。


 角ウサギは進路方向を直角に曲げ地面の上を転がり砂煙を巻き上げる。フーランは右腕を振りぬいた形で静止して微動だにしない。


 僕は今何を見せられているんだろうか?活劇かなにかかな?



「フーちゃんそれ、“ぺしぺし”じゃなくてただのビンタだよ......」



 安心からかステラがへなへなと座り込む。なるほど、さっきの会話を聞いてたのか。角ウサギは自身のスピードと体重の乗ったフーランのビンタによって絶命した。フーラン、君は物理タイプだったのか。


 戻ってきたフーランはマルに近づいて「ギャギャ」と話しかけている。マルはそれを聞いてプルプルと揺れている。何を話しているのだろうか?


「次、スライローゼ君準備して」


 どうやら僕の出番のようだ。なんで僕を最後にしたんだ先生。みんなが快勝した後にランクFのスライムが通りますよ。スライムの戦闘、僕ですら予想できないのだけど。


「マル、好きなよう戦っていいから全力を出してこい」


 マルはプルンと揺れて、自信満々に飛び跳ねていく。どこから来るんだその自信は。


 マルが立ち止まると、檻が開き角ウサギがでてくる。両者が向かい合いすぐに戦闘が始まると思ったが、なにやら角ウサギが困惑しているように見える。


 角ウサギは恐る恐るといった感じでゆっくりとマルに近づく、マルは静かに迎え撃つようだ。角ウサギはゆっくりと移動してあと少しでマルに届く距離まで近づいた。あれは絶対に「なにこれ?生き物?」と思っている顔だ。そうだな。動かないスライムなんてただの丸い球だ。


 角ウサギがニオイを確かめようと鼻をひくひくさせた時、マルが突然触手をニュっ!と伸ばした。角ウサギはびっくりして後ろに飛び跳ねる。マルから満足気な感情が伝わって来る。このいたずらっ子め。


 今ので完全に敵と認識した角ウサギが突進してくる。マルは居合い抜きのように触手を振り抜き迎え撃つ。おそらく先ほどのフーランと同じ戦術をとるつもりなのだろう。


 マルの触手は、タイミングばっちりで角ウサギにぶつかった。決まった!と思われた触手の一撃は角ウサギにぶつかったと同時に爆ぜ液体となって飛び散る。液体を全身受けても角ウサギの体当たりは止まらない。角ウサギの捨て身の突撃はマルをとらえ吹き飛ばした。


 砂煙を巻き上げながら転がるマル。クラスメイトから「うわ!大丈夫か?」という声が聞えた。ステラも口に手を当てて心底心配そうにマルを見守っている。砂煙が落ち着いたあと、プルプルと震えながらマルは立ち上がった。『いまのはきいたじぇ』みたいな気持ちが伝わって来る。......僕にはわかるアイツ余裕だな。


 角ウサギ再度動き出したマルを警戒してみている。マルは体を引きずり傍から見れば、一見して満身創痍のように見える。しかし角ウサギへ向かう歩みは止まらない。それもそのはずすべてマルの演出なのだ。このいたずらっ子め。まだ勝負はついていないと言わんばかりに立ち向かっていく。その姿に触発されたのかみんなが「ガンバレ!」「きっと勝てるわ!あきらめないで!!」と声援を送る。


 みんなが僕より応援してる。


 声援を受けてマルは、さっきまでの重い足取りが嘘のように角ウサギに向かって一直線に加速する!角ウサギは回避行動をとろうとしたのだろう。しかし、体についた液体は粘着質となり、角ウサギはその場から動けない。


「今だ!!いっけえぇぇぇぇ!!!」


 クラス全員の声が重なった。なんだろうこの一体感は。


 会心の一撃。マルの体当たりはそう表現するにふさわしい一撃だった。しかしそこでマルの攻撃は止まらない。跳ね返った反動をバネにもう一度跳躍して体を回転させながら触手の乱舞がさく裂する。周囲から「おぉ!」という感嘆の声が漏れる。視聴者の皆さん(クラスメイト)が良いリアクションを返してくれてマルからノリノリの気分が伝わって来る。


 マルはそのまま角ウサギを飛び越え、角ウサギの背面に着地する。振り切ったままの触手は体にしまうのではなく、その場で液体にして拡散させた。



 マルは振り返る事はせず、もう勝負はついたというように歩みを進める。角ウサギは体勢を崩し力なく倒れた。



「おおおおぉぉぉぉぉよくやった!!」


 クラス全員の祝福にマルは満足そうだ。フーランも腕を組んで「ぎゃ」っと頷いている。うん、そうだね。良くできました。マルはカッコつけて大地をゆっくりと前進する。それはイイんだけど、それよりマル。僕はこっちだ戻ってきなさい。


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