第4話 召喚士(サモナー)失格 2




「先生、眷属が傷を負ったままの状態でいるとどうなりますか?」


「傷の大小に関わらず、放置してしまうと生命力が絶えず放出されることになります」


「・・・つまり?」


「大きな傷ほど生命力の放出は激しく、そして生命力がすべて放出されてしまった眷属は死にます。戦場ではいかに効率よく魔力を渡たし治療できるかが重要になります」


 さっきから警鐘が鳴り響くようなマズい感覚がする。


「なぁお前ちょっと色が濁ってきてないか?大丈夫だよな?」


 スライムが小さく揺れる。心臓を握られたような嫌悪感が走る。なんでこうなるまで放っておいた!今まで元気なフリしてたのかよ?!なぜ僕に言わない?!......っそうじゃない!こんな僕に頼れるわけがない!言えるわけもない。僕は召喚者失格だ。気付かない僕が悪い。


 わかっていたはずだ!召喚士(サモナー)になるとはどういうことか。眷属の親になる責任と覚悟を持て。当たり前の事じゃないか!


 ......僕は最低だ。


 召喚の儀で召喚されたのがドラゴンじゃなかった。それで僕は勝手に絶望して自暴自棄になった。


 僕の呼び出しに答えてくれたこいつから共命石を抜き取り殺した。それで一度は後悔したんだろう!だから生きていたと分かった時に安堵したはずだ。それで僕はどうした?それでもなお都合の良いように扱った。不満を当たり散らして蔑ろにした。自分の事しか考えていない最低じゃないか!


 どうしてあの時、持ち上げただけで溶けて形を保てなくなった。なぜ気づかなかった......弱ってたんだ。


 衝動的に共命石を持って再召喚した。それであの時は魔力が補充されて皮一枚で命が繋がっていたんじゃないか?あの直感はそういう事だったのか。まだある。自室に戻るなり水色の体を吸収したのは少ない魔力を補充していたんじゃないか......。


 僕の中で次々と情報が整理されていく、考えてみればおかしいと気づいたはずだ。僕は何回こいつを殺すつもりなんだ!きっと次はない。絶対助ける。助けて僕は謝らないといけない。


 今はどうすれば良い?!どうすれば触れられる!熱で溶けるなら、手を冷やせばいい!


「なぁ!誰か!氷を準備できないか?!」


 場違いな緊迫した声に周りがざわめく。その中でひとりの女性がおずおずと近づいてきた。


「あの、大丈夫?私のフーちゃんは魔法で小さな氷なら作れるけど」


「よかった!小さくても良い!氷をくれないか?」

 

「・・・わかった」


 氷を受け取り、手に握りこむ、手の熱を吸い取るのと反対に氷はとけ水が滴る。手の温度が十分に下がったのを確認して、スライムに手を差し出す。頼むうまくいってくれ。


「なぁ頑張ってもう一度、手に触れてくれ」


 力なく伸びる触手に僕自ら手を近づける。魔力。頼む届け。届け。届け!


 触手は形を崩し、液体へと変わる。


「なんでだ!!!」


 気が付いたら僕は叫んでいた。異常事態を理解して周りも騒然としている。誰か教えてくれどうしたらいい。熱じゃないなら、なんなんだ。どうして溶ける?!わからない。不甲斐ない自分に腹が立つ。


「なぁ、どうしたらいい?教えてくれ頼むっ」


 スライムは動かない。僕は触れることすらできないパートナーを見下ろした。悔しさがこみ上げて視界が滲むのを唇を噛んで耐える。何が召喚騎士(サモナーナイト)だ!ぼくは召喚士(サモナー)ですらない!唯一無二のパートナーの事すら見ていなかった!最悪だ!!


 僕は情けなく大粒の涙を流していた。零れ落ちる涙を気遣うように、スライムの触手が力なく涙を吸い取る。ばかやろう、こんな時まで僕の心配をするのか。


 いや、違う。涙を吸い取った時、肌に触れたが触手は溶けていなかった。なぜ?もしかして涙からなら魔力がとれるのか?!涙・・・水?脳裏に水色の体を吸い取る場面がよぎる。水だ!!!


「すまない!もう一度氷を頼む!!」


「は、はい!」


 僕は氷を手で包み溶かしていく。水滴のひとつひとつに魔力をまとわせるようにイメージする。体中の熱が手に集まっていくような感覚がする。心なしか手が熱く氷の冷たさが苦にならない。手に握りしめた氷はどんどん溶けていく。滴る水滴をスライムに沁み込ませていく。頼む。頼む。頼む。上手くいってくれ。


 スライムから歓喜の感情が流れてくる。............良かった。これでいいんだな。



 氷が全部溶かし終わって周りを見ると、クラス全員が緊張した様子で囲んでいるのに気づいた。


 スライムも囲まれているのに気づいたのか、戸惑った様子でプルンと揺れて跳ねた。それをみたみんながワッと歓声を上げる。拍手と声の雨を受けてスライムから嬉しい感情が流れてくる。僕も嬉しい。



 でも、これはちゃんと言っておかないといけない。


「辛く当たってごめん、気付いてやれなくてごめん、最低な親でごめん」


 スライムは逆に僕を気遣うようにプルンと揺れた。......僕を責めてもしいんだぞおまえは。


 


 スライムと見つめ合う。僕はちゃんと行動で示さないといけない。僕の眷属はスライムなのだ。守って育てて。そして人生を共に生きる。ちゃんと前を向いて頑張るからさ、そばにいて欲しい。


 スライムはまたプルンと揺れて応えてくれた。

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