第2話 子供の時に憧れた職業召喚騎士(サモナーナイト)2
召喚されたばかりの眷属は幼く、か弱い。いずれ、強大な力を持って召喚士(サモナー)を守る盾となり、魔物を切り裂く剣となるが、成熟するまでは逆に召喚士(サモナー)に守られる存在でもあるのだ。
眷属の種族によって成長の速度に違いがみられるが、3年は義務教育期間と定められている。
つまり、何が言いたいかというと、新米召喚士(サモナー)は眷属の成長を促すと同時に良好な信頼を築くための知識を得るために、学校に通わなければならないということだ。
簡単に説明すると、新米召喚士(サモナー)には知識を、眷属は成長のための訓練をといったところだ。すべての眷属が戦闘に向いているわけではないが、最低限の自衛できるチカラは必要だ。街中は比較的安全だと言えるかもしれないが、魔物が襲ってこない保証はない。それなら、いつか襲ってくるかもしれない事態に備えて準備しておくというのが国としての方針だ。
また、教育期間中、戦闘において優秀な成績を残した召喚士(サモナー)は、召喚騎士(サモナーナイト)として任命される事もある。ドラゴンを召喚した僕の兄は、半ば召喚騎士(サモナーナイト)が約束されたものであったが、本来は実力主義の世界だ。当然僕の目標も召喚騎士(サモナーナイト)だったのだが、とても戦闘向きとは言えない眷属を召喚してしまった。人生とはままならないものだ。
眷属はその戦闘力に応じてA~Eランクを設定されている。これは例外ではあるがAより上のランクSがある。SUGOIのSだ。父さんがそう言っていた。これは、戦場でで一騎当千の活躍した眷属に与えられる称号みたいなもの。Sランクを得れば、間違いなく歴史に名を残す人物になるだろう。逆に戦闘力がなく、低いランクの眷属が無能かと言うとそうでもない。
最低ランクのEでも、戦闘力は低くても特殊な能力がある場合もある。ケガを一瞬で治す回復魔法であったり、逃げ足が異常に早かったりと様々だ。主に生産職に就くことが多い。ランクが設定されているのは、間違って戦場に送り出さない為の措置ともいえる。戦闘力で割り振ってさえいればCランク以上の召喚士(サモナー)は戦場へという指示がしやすいわけだ。
僕の眷属はスライムだ。このタイプの眷属は今までに前例がなく、「なにそれ、本当に魔生物?」と言われた。僕もそう思う。わらび餅と言われた方が納得できる。ちなみに安いやつだ。新種族という事もあって、僕の名前から種族名が命名されたけど、全然嬉しくない。だってこいつクソ雑魚なんだもん。
戦闘力は成長に応じて変動するものだが、スライムの初期ランクをどうするかで物議を醸しだした。判定員から「一度そのスライムを調べて戦闘力を測りたい」との申し出があったが、「手の熱で溶けて死ぬのでやめてくれ」と丁重にお断りしたところ、ランクFが設定された。まさかの例外である。「間違いなく歴史に名を残す人物になるよ」と半笑いで言われた。なにコイツ腹立つ。
ランクFを任命された僕とスライムにもどうやら学校に通う義務はあるらしい。必要最低限の自衛力というのはどうやって身につければいいのかな。間違いなく、夏になったらこいつ死ぬんだが。世界は僕に厳しい。
学校の雰囲気というのは、何度も兄から聞いていたので大体の事は知っている。高ランクの眷属を召喚した召喚士(サモナー)はとにかく目立つ、そしてモテるらしい。僕の兄は生まれながらのランクAのドラゴンだ。兄の端正な顔立ちもあって相当モテたらしい。腹立つ。 まぁそれもあって僕にはあまり居心地の良い場所にはならないだろう。ランクAとランクF比較する行為自体が無意味なほどの圧倒的な差。
僕は兄の召喚の儀を観てから今まで、召喚騎士(サモナーナイト)になる事だけ目指して生きてきた。さすがにスライムでは召喚騎士(サモナーナイト)を目指す事はできない。答えがわかり切っているのだから簡単にあきらめもつくというもの。僕の眷属は生命維持が困難なほど戦闘力がないのだ。どうしようもないじゃないか。
こいつは完全に生産系の眷属だと思う。気づいたらこのスライム床の汚れとかをきれいにしてるし、試しに僕の嫌いなセロリを床に落とすと嬉々として食べてくれる。地味な証拠隠滅作業は完璧ときたもんだ。
僕は将来スライムを働かせてクリーニング屋さんにでもなるんじゃないかなと思う。あ、こいつ夏には死ぬんだった。涼しくなったら復活するのかな?そんなわけないか。
ついでに、初回召喚時は青いスライムだったけど、手の熱で溶け死んでから、再召喚したら赤いスライムになってた。しゃべる事もできないから同一個体なのかもわからん。自室に戻ると青いスライムの水たまりを吸収したと思ったら色が紫に変化した。つまりだ。よくわからん。
§§§
今年の新米召喚士(サモナー)は総勢で121名だ。国全体からその年の新米召喚士(サモナー)が一堂に呼び集められて教育を施されるのだ。
クラスはCランク以上とDランク以下で大きく区切られ、そこからさらに20人程度に分けられる。
僕は無事にDランク以下のクラスに割り振られた。特別教室なんてものがなくてよかった。どうやら僕はちょっとした有名人になってしまったらしく。見覚えのない顔からリセマラさんと揶揄する言葉を投げつけられたが、僕が言葉を投げつけて反撃することはない僕はもう大人なのだ。
輩が嘲笑して去っていく時に、スライムの体を引きちぎり投げつけておいた。大丈夫、わかっている。きちんとお尻に命中させた。僕はいたって冷静だ。思う存分誤解されるといい。
ふとスライムを見たら『もうあるじぃはしょうがないなぁ』みたいな感じでプルンと揺れていた。こいつにも意思はあるのだろうか?
僕のクラスは21人だった。Dランク以下のクラスなので、そのすべてが非戦闘員の眷属ばかりだ。成長次第ではクラスの繰り上げも起こり得ることだが、今は幼体という事もあってどれも持ち上げあられるほどの大きさだ。
これらの幼体がどのように変化していくか僕には想像ができない。まぁその中でも僕のスライムの変化がぶっちぎりで想像ができないのだが。一生このままだよって言われたら納得してしまうほどに。視線をスライムに移すとプルンと揺れた。
え?おまえ成長もなしなの?僕はもうダメかもしれない。
担任の教師が教室に入ってきて、自己紹介の流れとなった。自己紹介が続くが正直誰の名前も覚えていない。
僕の番となり立ち上がったとき、ひそひそ声が聞こえた。声の主を目視で確認したが、僕は意に介さず自己紹介をした。
「僕の名前はスライローゼ、眷属の種族はスライムです。よろしくお願いします」
席に座りなおすとスライムに視線を移す。プルプルと揺れる体を観察しながら考える。
(3人分はちぎっても大丈夫か)
スライムは返事をするようにプルンと揺れた。僕をリセマラさんと呼ぶ奴はただでは済まさない。スライムも同じ気持ちなのだろう。さすが運命共同体だ。
その時天啓のようにひらめくものがあった。知らない間に汚れを付けて、僕がスライムを使ってクリーニングをする事業だ。これはいけると思った。
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