第十一話「恐れないで」
私はカフェを出た後、路地裏で泣いた。
声を押し殺すようにして、溢れてくる涙を拭い続けて。
小一時間程泣いた後、私は一度帰宅する事にした。
私はこれからどうするか?
決まっている。罪を償い続けるのだ。
死ぬというのは、一番手っ取り早く済ます事が出来るが、それじゃ温いだろう。
どうやって償えばいいだろうか。
そんな風に考えていると。
私の横から何か猛スピードに迫ってくる存在を感知する。
足元を見ると真っ黒なコンクリートの上に、白い長方形が規則正しく並んでいるのが見えた。
ここは横断歩道だ。
前に目を向けると、歩行者用の信号が光っていた。
――真っ赤に。
横から迫ってきている存在に目をやると、その存在は目と鼻の先まで近づいていた。
ぁ、死ぬ。
不思議と恐怖はなかった。あるのは懺悔のみ。
どうか、彼に幸運を。
そう願うと街に響き渡る鈍い轟音と共に、私の意識は途絶えた――――――
――――――――――――――――――――
――――どうやら私は生きていたらしい。
神はまだ私を死なせてはくれないらしい。
医者の話によると、私はもう少しで本当に死ぬところだったらしい。
病院に搬送されすぐに手術をして、医師達の迅速な判断と冷静な対応により、なんとか一命を取り留めた。
しかし、後遺症として私は下半身不随となった。
それは良いのだ。神が『死では生温い、更なる試練を与えなければならない』と考えたのだろう。
ただ天罰が下っただけだ。
しかし気になるのは、白鳥縁の事だ。
今の私の状況を知った彼はどう思うだろうか。
『あの糞女に天罰が下って、スッキリした』と思っているだろうか。
『こんなんじゃ生ぬるい。死を持って償え』と思っているだろうか。
はたまた、優しい彼の事だ『俺のせいで一ノ瀬さんを傷つけてしまった』と思っているだろうか。
『俺があの日一ノ瀬さんを連れ出さなければ…!』と思っているだろか。
こんな風に思ってくれていた方がまだ良い。
私が一番恐れているのは、
『一ノ瀬佳歩を好きになったせいで、彼女を傷つけてしまった。ならこんな関係最初からなければ良かった。なら悪いのは何か。それは恋だ。恋が私の天敵。恋は恐ろしい』
と、恋に億劫になる事だ。
彼は純粋で優しい青年。
彼程魅力的な男性は居ないと、かつて彼の魅力の虜にされた女が確信して言える。
だから沢山恋をして欲しい。
一人の女の為に全てを塞ぎ込んで、自分から拒絶するような真似はやめて欲しい。
―――だってそれは、私がやってしまった事だから。
身勝手で、自己満足的な想いではあるが、私は彼の事を想って、自分から遠ざけるように、二度と私の元へ帰って来ないように、彼の好意を拒絶した。
拒絶をした理由は私は罪を抱えていたからだ。
しかし、彼は純白だ。
だから、彼は人の好意を拒絶する必要はない。私なんか忘れて、もっと芯のある信頼出来る相手と巡り会って欲しい。
―――もしも、彼に一言だけ言う事が許されたならば、私はこう言う。
――――――「恋を恐れてはだめ」
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