第三話「偏見」
決壊後。
私はファミリーレストランで気絶し、沢渡と須藤に連れられ須藤の家に運ばれた。
「二人とも悪いな…」
「あぁ気絶したときはびっくりしたよ…改めて大丈夫か…?」
正直言って大丈夫ではない。
未だ脳をつんざくような痛みがするし、全身から流れ出た汗が冷え、寒気もする。
「…少し1人で考えたい」
「「分かった」」
二人とも訳も聞かず、部屋から退出してくれた。全く良い友達を持った。
二人の心遣いに感謝して、自分の事に専念しよう。
…一ノ瀬。
何故今の今まで忘れていたのだろうか?
何を隠そう、彼女こそが私の初めて心から好きになった女性であり、
…初めて心から憎んだ女性でもある。
――――――――――――――――――――
――――――幼少期、私は素直な人間であった。
友達から頼まれれば駄菓子を奢ってやったり、宿題も写させてやったり、掃除当番も代わりにしてあげたりした。
幸い何もトラブルには巻き込まれていなかったのだが、父はそんな私の様子を見て、
「人は裏切る」
という事を教えてくれた。おいそれと他人を信用しすぎるのは、良くないと。
父は現在の勤めている会社に平社員として入社し、副社長の地位まで上り詰めた生粋のビジネスマンだ。
仲間と思っていた人からの裏切りも経験しているのだろう。
私はそんな父の言う事だからと、人間関係を見つめ直した。
そしたら多少友人は減ったが、親友と呼べる人も出来たりしたため、楽しく生活していた。
しかし、女に目を向ける事は無かった。
それは教室では仲の良い二人の女子が、互いの陰口を言っている現場を目撃したからだ。
それは一つの事象に過ぎないが、子どもの偏見というのは残酷なもので、
この一つの出来事で、"陰口=女"という方程式がいとも簡単に出来上がってしまう。
さらに女子と交友のある男友達からの情報により、女は陰口の言う、裏表のある人間なのだという偏見は強固なものになっていた。
女は皆裏表があると信じて疑わなかった。
だから私は驚いた。
高校三年生に進級し、一ノ瀬佳歩と出会ったとき。
――――――――――――――――――――
――――――一ノ瀬佳歩の第一印象は、裏表が激しそうだと思った。
何故なら彼女は誰に対しても分け隔てなく接し、誰にも嫌な顔を見せる事は無かった。
こんな完璧な善人存在する訳が無い。
さぁいつ本性を現してくれるのだろうと、少し性格の悪い事を思っていた。
しかし半年が経ち、クラスの大半の女子が裏の顔が露わになっていく中で、
彼女は誰に聞いても、皆が思い描いている一ノ瀬佳歩だったのだ。
だから私は十数年間で培ってきた直感を信じれなくなっていた。
彼女は裏表の激しい人間なのだろう、という直感を。
しかし、それもこれも私には全てどうでも良い事。
私は須藤のような友人がいるだけで満足なのだから。
そう思っていた。
すると彼女が接近してきた。
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