第47話 突然のカウントダウン
カリカナの家でご飯を食べ終え、午後は毛皮の洗濯の約束もあるし、カリカナに声をかけてそろそろ家に帰ろうとしていると、ウィンドウが勝手に開いた。
『邪悪なる進行まで、残り時間04:59』
(邪悪なる進行?!)
突然の穏やかではない告知に嫌な緊張が走る。ウィンドウをタップすると残り時間は右下へ移動して、チュートリアルが始まった。
【チュートリアル:邪悪なる進行】
『この世界は絶えず攻撃を受けている。魔物は人々の居住区域に出現して破壊の限りを尽くすだろう。魔物の進行に抗うべく防衛を築き、その力を示し撃退せよ』
説明を読み進めていくと、要点はこうだ。
①人の住んでいる場所は定期的に魔物に襲われる
②領土を守るために力を合わせて戦え
③魔物は大群で押し寄せてくる。勝てば町の発展。負ければ町の衰退。
④勝利条件は魔物の撃退
⑤敗北条件はシティコアの破壊
(なんだよコレ、なんの準備もしていないのにこんなのどうすれば)
喉が締め付けられ、心臓が口に這い上がって来そうな嫌なプレッシャーに考えがまとまらずにいると、外からけたたましい音が聞こえてきた。
カリカナとその母は大きく目を見開いて、次の瞬間泣き出しそうな苦痛な顔をした。
「ジャシンだ......」
(くそ、これが邪進なのか)
「カリカナぼさっとしないで毛皮を持って逃げる準備をなさい!」
「う、うん!」
ステータス画面のカウントダウンはいつのまにか01:30になっていた。
「マナブ! マナブ! どうしたの!」
カリカナの声にハッと我に返る。そうだよ。こうしちゃいられない。危機が迫っている。自分だけは大丈夫だなんてそんなわけはない。
「マナブ! 早く逃げないと!」
「わかった。でも準備しないと、僕は一度家に戻る」
「でも!」
「すぐに追いつくから先に逃げて」
カリカナは母と目配せして、僕とは別の方向へ走り出した。カリカナと共に走る母の姿をみてこのタイミングで足の治療ができていて良かったと思った。
村にまだ魔物の姿はないが村のすぐ外には、魔力溜まりと思われる空間の歪みが目に見えてわかった。
魔物1匹分ではない。村を飲み込めそうなほど大きな空間の歪みに個人ではどうしようもないような絶望感を感じた。
「ジャシンだっ! こっちだ! こっちへ逃げろ!!」
小さな家の中から村人が飛び出して一目散に逃げていく。僕も家の中へ飛び込み貴重品を回収する。蛮族鈍器にストーンナイフ。あとは毛皮ぐらいか。
部屋から飛び出すと空間の亀裂からボトボトと黒い物体がこぼれ落ち始めていた。
「ユイファ! タジキさん! ユイファ!!」
ユイファの家に向かって声を張り上げて名前を呼ぶ。返事はない。行動の速い2人の事だ。もうすでに逃げているのかもしれない。
「ユイファーー!」
やはり反応はない。逃げてくれたのならそれでいい、僕も早く逃げて合流しないと。
村人たちが逃げる方向を見据えてその背中を追う。魔物も出現の早かったヤツから先に動き出した。
走る内に村人の最後部に追いついた。おそらくこの人も以前の邪進で負傷してしまったのだろう。足を引きずっている。
家族が肩を貸して懸命に走ってるが遅い。このままだと足の速い魔物に追いつかれてしまいそうだ。
後ろを振り返ると1匹の魔物が狂ったように駆け寄ってくる。
この家族を囮にして逃げればおそらく僕は助かる。でもそれで良いのか? 蛮族鈍器をギュッと握りしめて体を反転させる。
「逃げてください! ここは僕が食い止めます」
「す、すまない!」
村の方からは建物を破壊する音が断続的に続いているが、こちらに迫る敵は幸いなことに1匹だけ、コイツさえ倒してしまえば時間は稼げる。
迫って来る魔物は4足歩行の犬型らしき姿。体が軋むのか、ぎこちない走りだが人間が走るぐらいのスピードは出ている。
問題はあのスピードで腰より低い位置にいる魔物にどうやって戦うか。ファイアを使えばいくらかHPを削れるかもしれないが、炎で視界が塞がれるのと、また炎を突っ切って突撃されるかもしれない。それなら―――!
「ウォーター!」
走り迫ってくる魔物に水流を当てる。魔物は横にズレてウォーターを回避するが問題ない。すかさずウォーターを継続発動したまま放出の向きを変えて捉えた。
水流に押されて魔物は態勢を崩して地面に縫い付けられる。このチャンスを活かすべくウォーターの魔法に重ねるのはもちろん。
「サンダー!」
しかし、僕が想像したような水の中を通って感電させるといった合わせ技にはならなかった。それでも水流の外側を雷撃が走り魔物に命中してスタンを状態を作り出した。
状況的には完璧に近い。まだ魔法に攻撃力がない以上蛮族鈍器でHPを削るしかない。
蛮族鈍器を強く握りしめ、地面近くにいる敵を攻撃するために腰を低くして攻撃モーションに移る。
「脳天割!」
武器を振るう軌跡に赤いエフェクトが発生し、蛮族鈍器は吸い込まれるように魔物の脳天目指して振り下ろされた。
魔物の頭は地面と挟み込まれるように蛮族鈍器に打ちつけられ爆ぜた。頭を破壊すると同時に、魔物は水晶体となって砕けた。
【魔物をたおした】
経験値40を手に入れた。
魔物は魔水晶の欠片80を落とした。
マナブのレベルが上がった。
回収の制限解除
『パッシブスキルの回収が使用できるようになった』
朝凪 マナブ Lv.3
混濁の魔法使い
HP 21/21
MP 23/30
ちから 10
みのまもり 9
かしこさ 15
すばやさ 9
きようさ 22
たいりょく 99
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