第40話 石鹸の効果は抜群か
魔法をドライヤー代わりにして、髪と全身を乾かす。
服も便利魔法のドライを使えばあっという間に乾燥して、さっぽりとしたマナブがそこに居た。
「じゃぁ毛皮の手入れでもしようかな」
革製品は扱いが難しい。
もう一度革を柔らかくなめすつもりで、クリエイトの魔法をかけながらドライを使って乾かしながら革を伸ばしたり、叩いたり揉み込んでみたりする。
段々と革は乾燥していくが硬くならずに柔らかい状態を保つことが出来た。
石鹸で洗ったおかげでほのかに甘い香りと手触りの良い清潔感のある毛皮へと変貌していた。
これなら顔を埋めて寝ても良いと思える。
もう一つの毛皮も同じように処理をしていく。腐る原因はたんぱく質や脂質を細菌などが腐食するからだ。
念のためプリフィケーションとクリエイトの重ね掛けで浄化しておこう。
ユイファ達が帰ったら自分の寝床の毛皮も同じように洗わないとだな。
手触りや革の状態も断然こちらの方が良い。洗う事で気持ちよく寝れそうだ。
「マナブ―」
僕を呼ぶユイファの声に応じて脱衣室の方に入ると、びしょ濡れのふたりがいた。
やっぱりタオルは必要だよな。天然素材と言えば麻だけど麻でタオルが作れないかな。
ユイファも麻の服らしきものを着ているし、製法自体はあるんだ。
それなら服を作るよりも布切れを作る方が楽なはずだからできないことはない。
糸にしたって、オオトカゲを捕まえる時に自生しているツタを使ってロープもどきをクリエイトの魔法で自作した。繊維に関してはあの方法が使えると思う。
問題は糸を生地にする手間の方なんだよな。
全身を拭くのにバスタオルほどの大きさが必要かと言われたら実はそうでもない。フェイスタオルぐらいの大きさがあれば十分なのだ。
あまり知られていないのだけど、濡れたタオルでも濡れた体を拭くことができる。
濡れた髪をタオルで拭くと当然タオルは濡れてしまうのだけど、絞ると水分を出す事ができる。
するとタオルは濡れてはいるがまた水分を吸収できるだけの余地が生まれる。
タオルが濡れたら絞り、また拭くを繰り返せばちゃんと髪の毛を含め全身をさほど大きくもないタオルで拭けてしまうのだ。
タオルは今後の課題として、無いモノは仕方がない。
魔法で一気に体を滴る水滴を飛ばして、衣服はドライで乾かす。
ユイファを呼び寄せてヤシ油もどきを適量手に取り濡れた髪に馴染ませていく。
「何をしているのだ?」
「これは石鹸を作った時の甘い香りのする油を髪に馴染ませているだよ」
「なぜだ?」
「髪をキレイにする工夫なのかな? 女の人はこういう事をするんだ。男の人はしないな」
「良い香りがするな」
「これが女の子の香りかも」
「そうか女の子の香りか」
髪に十分に馴染ませたらウィンドを使って髪を整えながら乾かしていく。
髪はさらさらと流れ、皮脂特有の照りの様な光沢から、月の光を反射する天使の輪へと変わった。もともと丈夫な髪質がだからこそだろう。
「わぁ素敵だよユイファ」
「そうか? さらさらとして落ち着かないな。それに頭も軽い気がするぞ」
カリカナの称賛にユイファは少し照れくさそうにしていた。
カリカナが期待の目でこちらを見てくる。
カリカナの大きな目は少し苦手だ。瞳がキラキラとしていてこちらに好意があるかのように錯覚して落ちつかない気持ちになる。
無条件になんでも受け入れてくれそうな、一種の誘惑にも似た何かだ。
「カリカナちゃん、さっきの見てたでしょ......このオイルを手に取って」
「わたしにはしてくれないの?」
「......してあげようか?」
「うん」
そんな笑顔を向けられたら、どう反応して良いのかわからなくなるよ。
まるで学校の中で同世代の女子に話かけられたときのような落ち着かなさ、元の顔が整ってる分化粧も不要か、現代ならそれだけでチート扱いだ。
もう一度ヤシ油もどきを手に取り、濡れた髪に馴染ませていく、ユイファよりも髪が長いから手入れにも時間がかかる。
今度はユイファがこちらをじっと見て手入れの方法やその変化を確かめようといている。
カリカナの髪に手櫛を入れながらウィンドの魔法で乾かしてまとめていく。
細い毛質でボサボサだった髪の毛が嘘のようにキレイなロングヘアーに仕上がった。
普段のカリカナを知っている分、ユイファの開いた口が塞がらない。それぐらいびっくりしたみたいだ。
「どうかなユイファ? マナブもありがと」
「いや見違えるほどだ。石鹸とはすごいな」
「ね、見て髪の毛がスルスルってほどけるみたいすごいよ」
「カリカナから石鹸の良い匂いがするぞ」
「ユイファもだよ、良い匂いがする」
「......町の女はこのように過ごしているのか」
「ふたりとも気に入った?」
それは確認するまでもないといった様子で、ふたりは最高の笑顔を向けてくる。眩しすぎて目がやられそう。
......キレイすぎる人間ってちょっと苦手だ。
自分がまともに接したらいけないような、自分は対峙するのが不釣り合いで情けないような気持ちになる。
これはあれと似ている。服を買いに行きたいのにオシャレな店に着ていく服がないという世界の終わり。
オシャレが洗練された世界では、オシャレに疎い人種が嘲笑される居心地の悪さがある。
ダサい人間は入店するのさえ品定めされているように感じて、場違いな情けない惨めな気持ちになるものだ。
それはあながち被害妄想ではなく、定員の態度にも客のランク付けとしてありありと表れている。
ブランドのもつ高貴なイメージ。それを素材の力だけで思わせるほどの美少女レベルの高さよ。
これはちょっとやってしまった感がある。人の印象で大きく影響するのが髪質と、肌の透明感。
このふたつは清潔感を演出するのに大いに役に立つ。
例え容姿が整っていても、不潔な印象があればイメージは下がるもの。
今まではそれが、女性らしさをぼかしていて、上手く認識をずらしてくれていた。
それが少し手入れをするだけで、とびっきりの宝石となるのだからこちらの方が困惑してしまう。
異世界は美形揃いはお約束だけれど、それを実際に目の当たりにしたら喜ぶどころか自信喪失も良いところだ。
あぁ、今はパンヤオの顔がみたい。
アイツもイケメンだけど想像の中で『パワーッ!』って筋肉ポーズ取らせて叫ばしたら心が落ち着くんだ。
「急に黙り込んでどうした?」
「はぁ......かわいい」
「ふぇ?!」
「ふたりが可愛すぎてパンヤオの顔を思い出してた」
「おまえは何を言っているんだ?」
ユイファの眼前に右手をそっとだして言葉を止める。
(ふぅ......大丈夫。落ち着けマナブ。この美少女二人は腕に産毛が生えている。そうなんだムダ毛処理していないということは、足にすね毛が生えている。そして、わき毛も生えている......)
ユイファは美人だが全身に毛が生えている。
「......もう大丈夫だよ」
「なんか無性にイライラしてきたのだが?」
魔法の言葉を唱えてマナブは気持ちを持ち直した。
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