第39話 石鹸の使い方
異世界の酸っぱい果実レモンもどきの衝撃から回復したマナブは異世界の女をお風呂の中へと連れ込む。
「これマナブのお家なんだね。なんかすごいね土器でできてるの?」
「そうだよ、粘土や泥を重ねて壁にしてあるんだ」
「普通は......こんなに粘土を集める大変だよ」
僕の場合一番面倒な部分を魔法で解決しているのだから、この世界の住人からしてみればズルをしていると思われても仕方がない。
カリカナは壁をペタペタ触って確かめている。
表情は前髪に隠れて見えないけど、土器の作り手として思うところがあるのかもしれないな。
それから普段はひとりでお風呂に入る事や、服を脱ぐことなど、お風呂を使う時の作法を簡単に説明する。
「それで、言葉だけではわかり辛い事もあるみたいだから今日は服を着たまま入る事になるけどそれは例外だという事を知っていて欲しい」
ふたりは素直に頷いた。
そもそも着替えなど準備してないのだから同じ服を着ることになる。
また汚れた服を着させるぐらいなら一緒にキレイにした方が良いのかもしれない。
僕の魔法があればすぐに乾かす事もできるし、そっちの方がキレイになる実感が湧くかもしれないな。
ふたりの服は麻の服と麻のスカートに毛皮の腰巻。
毛皮の腰巻だけは外したがこの中で一番汚れているのは毛皮だろう。
革製品は取り扱いが難しいが犬とかもお風呂に入れるわけだしちゃんと手入れするなら濡らしてダメという事はないと思う。
この際キレイに洗ってしまおう。
「その毛皮も洗ってキレイにしちゃおうか」
「毛皮は濡らすと乾かすのに時間がかかる今はダメだ」
「僕が魔法で乾かすから大丈夫」
「......そうか。それならマナブの言う通りにしてみよう」
浴槽に溜まったお湯を見てカリカナが興味深々といった感じで覗き込む。
「湯気がでてるよ、大丈夫?」
「大丈夫、熱いというより温かい温度だから」
「このままそこに入るとすぐにお湯が汚れるから先にこっちで汚れを落とすんだよ」
お湯を救い、ユイファとカリカナの手をまずは洗い流す。
カリカナの手には泥がついていて、乾燥してこびり付いているので念入りに泥をふやかす。
「温かい。それに水より手の泥もキレイに落ちてる」
冷たい水よりも温かいお湯の方が汚れは溶けやすくなる。そのおかげだろう。
石鹸を手渡して、使い方を説明するために毛皮の腰巻を洗うように指示する。
「わぁなにこれ不思議だね」
「すごい泡だな」
「その泡は汚れを浮かしてくれるから石鹸を使うといつもよりキレイに洗えるようになるんだ」
ふたりは泡立つのが楽しむように毛皮を手で撫でて泡まみれにしていく。
毛皮に溜まった土汚れで泡の色は白からすぐに黒っぽい色へと変わる。
「色が変わったのは汚れが落ちたからだよ」
「こんなに汚れていたのだな」
「なかなか洗えないもんね」
洗い終わったら大量の水ですすぎ、最後にレモンもどきの果汁を加えたお湯に浸して置くことにする。
毛皮製品は濡らすと革が硬くなったりと変質するので自宅で洗う事の出来ない扱いの難しいものだ。
洗うならクリーニング店に頼むか、水気をきつく絞った布で拭き取るぐらいしかできない。
見たところ、ユイファ達の毛皮の腰巻は革製品には成り切れていない。
ユイファからもらった寝床に敷く毛皮も乾燥した皮と表現したらいいのか硬い。
腰巻にしているのも寝床に敷いているのも使っている内に少しでも柔らかくなる事を狙っているのかもしれない。
正確に皮を革になめす方法は知らないけど、大事なのは腐らないようにたんぱく質や脂肪を皮から除去する事、皮を柔らかくすること。
確か皮なめしにはタンニン液に漬け込むだったかな?
タンニンは樹皮などにも含まれていて樹皮を煮だして、茶色くなったらそれだけでタンニンの抽出は良かったハズである。
一番古い方法だと噛みなめしといって人間が毛皮を噛んでなめす方法もあった。
ここの村の人たちはどんな方法でなめしを行っているのだろうか?
こういう世界では科学的なものは全部魔法で片づけてしまうのがお約束なんだけど、この世界の魔法は攻撃力が高い。
「これで石鹸の使い方は分かったと思うから今度は自分の体や頭、髪を石鹸で洗うよ」
体を濡らし石鹸をつけて衣服ごと洗うように全身の汚れを落とす。
「マナブ頭はどうやって洗えばいい?」
「どうって、こうやって」
「加減がわからん、私のを一度洗ってくれ」
んー? 女の人の頭も洗い方同じで良いんだよね?
石鹸を手で泡立ててユイファの頭にのせる。頭皮に指を添えるように優しく洗うと泡が立たなくなった。
恐らく皮脂が多くて石鹸の効果が薄くなってしまったのだろう。一度髪を流す。
「終わったか?」
「いや、石鹸の効き目が悪いからちゃんと泡立つまで続けるよ」
「わかった」
洗って流してをもう一度繰り返すと目に見えて泡立ちが良くなった。
泡を使って髪全体の汚れを落とすように丁寧に洗う。
「ユイファの髪、すごい沢山泡立ってる。すごいねマナブ」
「こうやって泡立ててから洗うと良いんだよ」
「ふむ」
洗い終わったのでユイファはシャワーのとこへ移動して自分で泡を洗い流してもらう。
「カリカナちゃんもこっちきて」
「......うん」
ユイファので感覚はつかめた。
人の頭を洗うのは初めてだったので新鮮だし、このふたりは特に洗いがいがある。
洗髪を泡立つまで繰り返す。泡が立ったら優しく髪全体を洗う。
「かゆいところはありませんか?」
「かゆいところ......?」
「おい、マナブ私の時はなかったぞ、なんでだ?」
全身を洗い流したユイファが小言を言ってくる。もう君は浴槽に浸かってなさい。
「髪を洗う時の挨拶みたいなものだよ、今思い出した」
「本当か?」
「かゆいところでもあった?」
「もうちょっとそこってところはあった」
「残念だけど今度は自分でやるんだよ」
「わかっている。なぁ髪がキシキシするのだが」
「ユイファはもう浴槽に入ってて、その酸っぱい果実をモミモミして髪も漬けたら良くなるから」
「では遠慮なく先に浸かっておこう」
ユイファが浴槽の中へと溶けた。
「ふぃーー~~」
「それでカリカナちゃんはかゆいところはある?」
「そこ、今の耳の上のところやってほしい」
「はーい」
「ふぇー、気持ちいいね」
「目に泡が入らないように気を付けて、沁みるよ」
「うん」
カリカナの髪も洗い終わったのでシャワーで全身を洗い流してもらう。
その間に自分の髪も洗ってしまおうかな。石鹸を使って頭をゴシゴシ洗う。
「あの、マナブの髪洗ってあげようか?」
「え?」
「上手にできるかはわかんないけど......」
顔を上げるとカリカナと目が合った。普段前髪が邪魔して見えない表情も濡れた髪でまとまっている今ならはっきりと見える。
ユイファに負けないぐらい可愛い顔立ちの女の人がお湯で火照った顔で見つめてくるのは破壊力が高い。
不意に可愛さを認識して、心臓がバクバクと脈打つ。
改めてふたりを確認すると今まで意識していなかったのがおかしいぐらいにふたりはしっかりと魅力的な女性だった。
「あ、いや大丈夫、自分でできるから。カリカナちゃんもユイファと一緒に浴槽に入ってみて」
「わかった。お邪魔するね」
これはちょっとヤバい。衣服をつけていたから温水プールにでもいるような気分だったのが、お風呂だと気付かされる。
ちらっと二人の後ろ姿を確認すると何も着ていないようなそんな錯覚までしてくる。
やましい考えが沸々と浮かんできたのと何も知らないのを利用して混浴してしまっている罪悪感が襲ってきた。
今の心臓の早鐘は近くに女の人がいるというドキドキなのか、やましい考えを思ってしまったことをふたりに気付かれないか緊張しているのか、どっちだろうか。
急に居心地が悪くなり全身の泡を急いで洗い流して、ふたりの毛皮を回収して外に出る。
「ふぇー、これ気持ちいいね。体がじんわりするよぉ」
「どうした? マナブは湯に浸からないのか? お風呂とはこれに浸かるためのものだろう?」
「僕は後でゆっくり入れるから、毛皮を乾かしておくよ」
「そうか?」
「ゆっくり入って、ほら果実の香りもいいし」
「確かに、良い香りだ」
「うん、この匂い好きになった、もっと潰してみてもいい?」
「そうだなもっと潰してみよう」
ユイファとカリカナの楽しむ声を後にして浴室から出る。
お風呂はひとりで入らないとリラックスできないな。
お風呂ではやっぱり男女の距離感が難しいと痛感した。
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