第36話 石鹸をつくろう
僕達は石鹸を当たり前のように使っているが、作ったことがあるか? っと問われれば否であると答えることになるだろう。
実は僕もあやふやな知識しかない。
ずっと前にサバイバルの手作り石鹸動画を見て、意外と簡単じゃん。っと思ったぐらいの知識で何とかしなければいけない。
うっすら覚えている石鹸の作り方はこうだ。
アルカリ液に油を混ぜたら石鹸になる。......だ。
言うだけならお手軽なのだ。きっと器用な僕なら簡単に作れてしまうに違いない。
問題はアルカリ液と油の調達だが、どうしたらいいのか?
その答えは簡単。木の灰と水を混ぜて灰の成分を水にしみこませたらアルカリ液になる。
ぶっちゃけて言うとこの液体がすでに洗剤らしい。だからそれを油と混ぜ合わせると乳化して成形できるようなる。それから空気に触れさせて乾燥させると鹸化して石鹸になるはずなのだ。
細かい部分はあやふやだが、大筋は掴んでるはずである。
「......というわけで、ユイファに焼いてもらったのが木や雑草の灰こちらです」
「そんなものをどうするんだ?」
「木の灰は水に溶けやすいように砕いて......」
蛮族鈍器でゴンゴンしていたのだけど、めんどくさくなってサンドの魔法をかけたら細かい粒子に変わった。これで良し。
木の灰を土器の中に入れて、水を入れて撹拌して数日放置するんだったか? 沸騰させた方が成分できそうだし、沸騰させてかき混ぜる。
そしてとりあえずクリエイトを唱えておけばこの世界は大丈夫。現代っ子は待つのが苦手なのだ。倍速、倍速っと。
撹拌が終わったらそのまま放置して上澄みの液体がアルカリ液、つまり洗剤だ。
「......と言うわけで、出来上がったこれが洗剤といって石鹸の元だよ。このまま使うと手荒れするから水に薄めて服などを洗う時にも使える」
「ふむ? 使うとどうなるんだ」
「アルカリ液は油を溶かす作用があるんだけど、油と水は普通は混ざらずに分離する。ユイファも肉を茹でてたら肉の脂が浮かんでくることがあるだろ? 油は水に浮くんだ」
「ふむ?」
「普通なら混ざらないはずの水と油がこの不思議な液体だと混ざるようになる。水と油を結びつける役割を持つものを界面活性剤といって......」
「マナブ、よくわからないからもういい」
えーーっ自慢させてよーーー。
もう、つまりアルカリ性は人間からでる汚れ、皮脂を分解してくれるから綺麗さっぱりとして、アルカリ性が強すぎると今度はたんぱく質まで溶かしちゃうから肌荒れにもなる。
灰汁洗剤だけだとただのアルカリ性の液体で界面活性剤がないから泡立たない。
それでも油汚れを乳化させて水に溶けやすくする効果があるからちゃんと汚れが落ちる。
実は、アルカリ液と油汚れが乳化したものが界面活性剤の役割をもっていて、乳化した油汚れは、油と水の両方に馴染みやすく更に油汚れを水に溶け込ませる役割となる。
どうせなら綺麗な油を乳化させといた方が使いやすくない? と水と油をあらかじめ混ぜ合わせて乳化させておいたものが界面活性剤を含む、泡立つ洗剤である。
そして水と油を混ぜ合わせて乳化したものを乾燥させて鹸化してできたものを石鹸という。
石鹸には界面活性剤の役割があるから泡立つ。また泡は汚れを浮かす働きまであるので皮脂汚れ以外にも効果があるよ。そんな感じーーー。
「......というわけでココナッツに似た油分の多そうな木の実を取り出して潰して水と混ぜまくったのがこちらです」
「それで油がとれるのか?」
「たぶん?」
このまま茹でてたら果肉部の油脂が分離して水に浮いてきて、油だけいい感じに掬えないかなぁっと思っていた。
だけれど、ずっと火にかけてたら水分の方が蒸発して、ぐつぐつからパチパチという音に変わってしまった。
不思議に思いずっと見ていたら液体から果実の個体部分が分離してきて、そのままにしているとこんがり揚がってきたので火からおろす。
油を掬い上げるどころか、土器の中には油が溜まっていた。つまりは僕の予想の逆をいったのだ。こんなにまとまった油が取れるなんて嬉しい誤算である。
果実の部分は食べるとサクサクとしてなんか美味しかった。
なんという事でしょう。これで唐揚げ作りましょうユイファさん。
「こんな事で油がとれるのか、甘く良い香りがするな」
「これがマナブの実力です」
「あぁ、マナブがすごいのは知っている」
もぉ知ってたの? 石鹸ちゃんと作ってあげるからね。
「灰汁の上澄みだけの液体とヤシ油もどきを加えて熱しながら少しずつ混ぜる」
「む?」
水と油が上手く混ざるとマヨネーズみたいなもったりとしたクリーム状になる。
一気に水と油を混ぜてしまうと、本来反発する水と油の勢力争いになりうまく乳化しないので、少しずつ加えて馴染ませる事によって抵抗を少なくするとうまくいきやすい。
これを型に入れて放置して固めると石鹸になるって話よ。
「クリエイト、ウインド、ドライ」
魔法を使って時短、時短。
「それで出来上がったのがこちら石鹸になります。......思ったより固まらなかった」
「これが石鹸か、どう使うのだ?」
「ちょっと待って、まずは僕が使って安全を確認するよ」
手を濡らして石鹸を泡立てる。
おぉ思った通りに泡立って嬉しい。すごいよマナブ。君はやればできる子だ。
洗い上がりは申し分ないし、手荒れもない。
ステータス画面を確認しても、たいりょくの数値に変化はなしということは大丈夫なはず。
「泡が立つのか面白いな。たまに肉を焼いた地面が雨で濡れるとぶくぶく泡が立つことがあるぞ」
多分それ、原理は同じかな。木の灰と水と油それが混ざって土の中で石鹸のようなものができたんだ。
「ほら、ユイファ手の匂いを嗅いでみて」
「ん、良い香りがするな」
「コレが女の子の香りさ」
「お前は男だろう、なぜそうなる」
「違う違う、僕のところでは女の人が好んで使ってたから普段から女性はこういった匂いがしたんだよ」
「ふむ」
「女の人はこの匂いも楽しんだりするんだ」
「その匂いを楽しむ気持ちはわかるな」
「でしょ? あとは時間をおいて問題がなければ、お風呂の時に使おう」
「そうか、どうなるのか少し楽しみだ」
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