第35話 僕は悪くない
急に結婚という言葉が出てきてびっくりしてしまったが、よくよく考えてみたらこんなにも自然体で女の子と話ができてるって僕の人生ではとても珍しい事に気付く。
あれれ、なんで緊張しないんだろう?
ユイファは美人な顔をしているし、カリカナも可愛い女の子だし、日本に居た頃なら間違いなく緊張して上手く話せなかったと思う。
学校の教室で、制服を着たユイファとカリカナを想像してみる。
クラスのトップに君臨するだろうユイファと目立たないけど密かに人気の高そうな光る原石のカリカナ。
うん、無理だね。
こんなに遠慮なしに接することなんてできないと思う。
ましてや頭を撫でるとか100回高校生をやり直しても無理。
......という事は僕って、このふたりを女性扱いしてないのか?
なんだろう日本にいる時と違って異性らしさを意識させられないんだと思う。
こういう生活をしているからか髪の毛はボサボサだし、足は土で汚れていて清潔感を意識させない。
顔は整ってるけどスポーツ少年的なわんぱくさを感じさせる。
......あと、毛だな。うん、毛だ。
遠目ではわからないけど、近くに寄るとムダ毛処理してないのが目につく。
いや......これはユイファやカリカナが悪いわけではない。
日本にはそういうムダ毛を処理してスベスベのお肌がキレイという文化がある。
美に対する価値観と努力は相当なものだったんだ。
僕のこの考えはすごく失礼なものだと自覚もしている。
でもそいう男がおろそかにしている美の追求を見せられると、そこに女という異性を意識させられて近づき難くなるのではないか。
顔のパーツで言ったら、ユイファはAI加工したように整った顔立ちをしている。
でも髪はお風呂に入ってマシになったけど、腕に産毛が生えてるし、近づいても女の子って感じの良い匂いもしない。
他に思い当たる事と言えば、黒目が大きくなるコンタクトレンズもしていないし、化粧だってなにもしてない。
......いやそこらへんは加工しなくてもユイファの圧勝かもしれない。
......あれ? という事は毛? ムダ毛が一番の原因だったりする?
僕って気付かないだけで、スベスベ肌フェチだったのか。
僕が急に真剣な顔で黙り込んでしまったので、ユイファとカリカナが顔を見合わせて困っている。
「どうした? 急に黙り込んで」
「......僕は自分の性癖について新たな発見をしてしまったのかもしれない」
「なんだマナブの性癖とやらを言って見ろ」
「いや、言わないけど」
「なんだか失礼な事を考えてそうで癪なのだ。言え」
「嫌だよ......」
いや......人の性癖を躊躇なく尋問するってどうよ?
ユイファは僕に無言で近づいて背後から抱き着いて、耳元に囁くように言った。
「いいから言え」
ユイファの吐息が耳を刺激してゾクゾクとするが、体はユイファにしっかりとホールドされて動かす事ができなかった。
いや、問題はそこじゃない。
密着した体に、喉元に突き付けられる石包丁。
首に軽く押し付けられた感触と石包丁の冷たさに冷や汗と震えがとまらない。
「あの......ユイファさん......当たってますよ」
「......当てているのだ」
ち、違う。これはもっとあざとい女の子とキャッキャ、ウフフな展開で胸が押し付けられる時に言われるセリフな筈であって、包丁の剣先が当たってる時のセリフではないっ!
「早く言え」
「は、はい、ぼ、僕は髪の毛以外の毛がない女の子が好きみたいですっ!」
「......」
「......」
「......どういう性癖だそれは......」
「......毛が無い人が好き?」
「もう! だから言いたくなかったんだよ」
文化が違うんだよっと僕がしくしくと泣いていると、石包丁が武装解除された。
ユイファは僕の肩に手を置き「マナブは予想外のヘンタイだな」と囁いてからカリカナの場所まで戻る。
僕が変態なんじゃないやい。
今に思えば日本女子の努力の賜物だったのだ。日本の女の子はキレイな部分しか見せないからさ、わかってるよ、わかってるんだよ。
女の子だって毛が生えることぐらいわかってるんだよ。
アイドルだってトイレに行くことだって知ってるんだ僕はっ!
でもなんか、確認したくない事もあるじゃないかっ。
ユイファ、君みたいな美人な女の子にわき毛が生えてるところなんて僕は知らなくていい。
ここが異世界だとしても僕に女の子の夢を見させてくれよユイファ!!
「僕のいたところでは、そういうのがキレイっていう認識だったんだよ」
「......そうなの?」
「ほら、腕の内側とかは産毛も生えてなくてスベスベしてるでしょ、全身がそういうのがキレイだとか、普段から髪の毛も洗ってキレイにしたりするんだ」
「......確かにお風呂に入った後の髪は違ったな」
「ユイファの髪キレイ」
ユイファとカリカナはお互いを見て、二の腕の腕側を確認している。
僕の言い分も少しは伝わってくれたのだろうか?
もし心が揺れてるならあと一押しかもしれない。石鹸を作って体を洗って実感してもらうのはどうだろうか?
「ユイファ、この村に油はあるか? 石鹸という僕の町の女の子必須アイテムを使わせてやる。そして僕の知る町の女の子を努力を証明してやる」
ふん、別に自分の言い分を理解してもらうためだけど、君たちをもっとキレイにしてあげるんだからね。
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