第24話 川での遭遇
異世界賢者マナブの朝は早い。早朝と呼ぶにはまだ薄暗い明け方。
同年代の女の子に足蹴されて渋々起きる。
一緒にお風呂を体験したことで改善されると思われた起こされ方だが、優しくなるどころか容赦がなくなってきてると賢者マナブは思った。
効果音で言うなら、ユサユサからガシガシに変わった。
「......ユイファ」
「起きたかマナブ」
「起きたから足蹴りを辞めて欲しい。今ので18コンボは越えた」
「そうか」
ガシ、ガシ。
「今ので20コンボだドン」
「うむ」
眠い目を擦って辛うじて目を開けると視界が黄色く点滅していてギョッとする。
HPバーを見てみるとHPが4まで減っていた。なんでだよ。
僕のHPってなんなの脆弱すぎない? 痛みはそれほどないのにHPがガリガリ削れやがるぜ。
ユイファって攻撃力お化けなの? やだ攻撃力の高い足じゃなくてお手々で起こして欲しい。
「ヒール」
カゴ背負ったら準備完了、起きてから10秒でスタートを切れるこの世界は素晴らしい。
「いってきます」
「うむ、支払いの分もちゃんと獲って来るんだぞ」
そんなローン地獄みたいな言い方はやめて欲しい。
支払おうと思えば1日で渡せるんだ、受け取ってもらえないだけで。僕はちゃんと働いているのである。
タジキさんの後をついて行く、何度も通るので歩きやすく踏み固められた道だ。
川に着いたら一旦タジキさんと別れる。タジキさんは水を汲んだらすぐに村へ帰る。
僕は居残って魚を捕獲したら、はらわたの下処理までして来いと言われた。
村で下処理をすると水を大量に消費するしで面倒が増える。僕なら魔法で何とかなっちゃうけどさ。
この世界の人はどうも魔法に関してはシステムに縛られてる感じがするんだよね。しらんけど。
この世界に来てからもうね、なんかね、魚しか食べてない。
お肉食べたい。お米食べたいっていっても無理でしょ?
「サンダー」
安定の漁業をして、魚を回収すると森の茂みから鹿が飛び出してきた。
「あ、鹿さん」
鹿と目と目が合ったので、どもっと軽くお辞儀をすると、向こうも軽くお辞儀を返してしてくれたので、一旦視線を外すと鹿が川の方に歩み寄って水を飲みだした。
(鹿だ、警戒心の薄い鹿だ。森の草をステーキに変えてくれる事で有名な鹿さんだよ)
視線は外しても気配を絶えず探って様子を確認する。
内心ではドキドキしながらやるか? ここはやってしまうか? とお肉への欲望燃え上がらせる蛮族賢者がそこにいた。
ファイアーだと多分マズいような予感がある。
ウィンドは突風であり、かまいたちの様にダメージを与える事はできない。
ウォーターも殺傷能力が低い。
ここはやっぱりサンダーで感電させて怯んだところを仕留めるのが良いだろうか。
(よし、決定。サンダーでいく!)
僕は口笛を吹きながら無害を演じすくっと立ち上がる。
鹿と目線があったのでお辞儀をするとまたしてもお辞儀を返してくれた礼儀正しい鹿さんだ。
視線を別の方向に向けて、何気なく鹿へと近づいていく。
鹿は身を低くしてこちらを注意深くみている。
【鹿はこちらの様子をうかがっている】
ふはははは、馬鹿め! 1ターンを無駄にしたな?! ここからは僕のターンだ!
「サンダー!!」
僕はズバッと指を突き立てて魔法を唱えた。指先から細い電流が走り鹿の鼻先に命中した。
鹿は電撃にびっくりして顔を振って暴れる。しかしダメージは浅い。
僕はサンダーの魔法を継続して、砂塵を巻き上げる加速で一気に駆け寄り距離を詰める。
MPが1秒ごとにみるみる減っていく、しかしここで使い切っても良い。
サンダーは鹿に纏わりつき電撃による筋肉の痙攣で相手はスタン状態になっている。
間違いなくチャンスだ。このまま仕留める!
僕は愛用の木の棒+1を振りかぶり鹿の頭をぶん殴った。
「お肉ぅーーー!」
ッゴ! という鈍い音と確かな手ごたえが手を伝わってくる。いわゆる会心の一撃。
やってやった。
あとは気絶したところを石でとどめを刺す。
蛮族賢者が勝利を確信したその時、鹿は案外ケロッとしていた。
野生の動物タフ過ぎない?
鹿は次は自分のターンだと僕に頭突きをくらわして吹き飛ばすと、颯爽と森の中へ消えていった。
【鹿は一目散に逃げて行った】
「く、くそ! た、戦え! 僕はまだやれる! く、くそーーー!」
僕は痛感した。攻撃力が足りない。つまりいつまでレベル1で魚獲ってるの? って話だ。
サンダーは命中したのだ。サンダーにちゃんと攻撃力が備わっていたなら、あそこで勝負をつけれていただろう。
物理攻撃力の判定は間違いなく、ちからのステータスだと思う。
そうすると魔法攻撃力の判定はかしこさだ。かしこさを上げて鹿を倒せるようにならなくては!
......かしこさが足りないって屈辱的なんですけどーー! 馬鹿みたいな扱いじゃない?!
ステータスの表示まりょくとかの方が良くないですか?!
蛮族賢者のマナブはかしこさが足りずに鹿を仕留められなかった。
「先生! 悔しいです!」
ひとしきり騒いだあとは持ち場に戻り、得意の漁業を再開して村に帰った。
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