第23話 そうだぐっすりおやすみ
お風呂から出た。
僕はタオルが無くて困っていた。
「タオル欲しい」
ユイファを見ると髪の毛を手で絞っている。
濡れる事自体は多くあるのかもしれない。体が濡れている事はあまり気にしてないようだ。
僕は服を脱いで絞ってそれで体を拭く。
ウィンドを主軸にファイアの複合魔法で乾燥できないかなと考えているとピコンと音がなった。
これはクレイの時と同じだ。
ステータスを確認するとドライが使えるようになっていた。
服に対して使ってみると瞬く間に乾いていく。これを人体に使うと肌がカサカサになりそうだ。
そうなると、ドライヤーのような温風がでる魔法も追加して欲しいところだが、それの追加はない。
仕方ないのでウィンドで髪を乾かそうとした時に思い付きで温度を上げると意識したら温風となった。
ウォーターの魔法もファイアを重ねなくても温かい程度のお湯なら出せるようになっていた。
僕の魔法はかなり融通が利く。ボタン一つで発動する手軽さと、直感的なコントロールパネルの様に調整もできる。
熟練度が上がるとコントロールパネルに操作できる項目が追加されるイメージである。
「水浴びだと体が冷えるが、お風呂は暑いな、汗がとまらないぞ」
火照った体を冷ますように手で扇いでるユイファがいた。
汗をかいてはいるが、体は衣服もろとも濡れたままだし、髪も自然に乾くのには時間がかかるだろうな。気温も言うほど高くはない。
放っておくと逆に体が冷えて風邪をひく可能性すらあるかもな。
「ユイファ、こっちきて」
手招きでユイファを引き寄せる。
「ウィンド」
「おぉ、風が気持ちいい」
「ドライ」
「おぉ? 服が乾いたぞ」
「ちょっと後ろ向いて」
今度は温風にしてドライヤーの様にユイファの髪を乾かす。
土埃がついているのが通常運転の髪が綺麗になり少し艶がでてきた。
黒髪のしっかりした毛質をしているので乾いた髪はさらさらと流れ落ちてまとまり、月明かりの光をわずかに反射する。
お風呂に入る前は皮脂汚れ混じりだったのだろう、マッドな質感に油分の照りのような艶があったのだけど、お湯でいくらか汚れも溶けて落ちたのだろう、今は清潔間のある黒髪でこころなしか美人度が増したようにも思える。
「すごい、髪がサラサラしてる。風で冷やしてくれるし、服は乾かしてくれるし、髪もサラサラにしてくれるしでマナブは便利な男だな」
「えーっ便利な男ってフレーズ嫌だな」
「そうか? 一家に1人マナブがいたら助かるだろう?」
「人を便利家電みたいな......」
「カデンとはなんだ?」
「便利な道具の事」
「誤解するな、私はマナブを道具扱いにはしてないぞ」
「わかってるよ」
ユイファは上機嫌で帰って行った。
この世界では陽が落ちればもう夜で寝る時間だ。僕的には夕飯時でゆっくりできる時間なんだけどな。
ユイファ達は寝る前にご飯はたべない。浴槽のお湯を抜いてご飯でも食べるかと思ったらひとつ問題があった。
「排水の事なーんにも考えてなかったな......どうしよう」
まぁいいか、お風呂の排水は明日考えよう。なんだかんだ毎日忙しく働いてるので疲れが溜まってる。
飯だ、飯。と今日の締めを迎えようとした時に異臭に気付いた。
「なんのニオイだ......?」
妙な胸騒ぎがして鼻に集中してニオイを分析する。
ほのかに腐臭のような忌避感を感じるニオイが時々風に運ばれてやってくる。
脳裏をちらつくのはグール系の魔物。
ゲームの世界ではありきたりな魔物だ。ゲームの設定では昼と夜とで活動するモンスターが異なる事がある。
よくよく考えたら、暗くなったらすぐに寝る生活というのも、昼と夜とで生態系の住み分けみたいなものがあるせいなのかもしれない。
(夜は魔力溜まりが発生しやすく魔物とエンカウントしやすいとか?!)
もしかしたら、僕は突発的な魔力溜まりを迂闊にも刺激してしまったのかもしれない。
このままだと村が危険だ。少なくても問題を確認して僕が対処しなければいけない。
ステータス画面を開いてMPが全回復している事を確認して、僕は慎重にニオイの元へ歩みを進める。
あたりは暗く光源は月明かりのみ。ライトの魔法を使いたいところだがまずは遠目で確認したい事もあり、使用を控える。
腐臭は段々と濃くなっていくが大きな気配はない。しかしハエが飛び回るようなブーンという音が聞こえる。
間違いない。
グールがどこかに潜んでいるんだ!
ホラー映画を観ている時は比べものにならない臨場感を伴った恐怖が襲ってきて体が無意識に震える。
息も自然と浅くなり、警戒を鳴らす心臓の早鐘が耳の近くで聞こえるようでうるさい。
おそらく問題の元凶だろう目星をつける。
ニオイの発生元らしき場所に羽虫の蠢く気配を感じる。
覚悟を決めて、正体を解き明かす為にライトを唱えた。
「うわぁぁぁぁッ!!」
思わずの悲鳴。
目の前には僕が昼に吊るした魚に群がる大群のうごめく蟲が魚の肉を食そうと覆い尽くしていた。
密集してうごめく様子を最大限の集中力で凝視した僕はゾゾゾゾと悪寒が走り身震いが止まらない。
「ふぁ、ファイアー――!」
反射的に魔法を唱えて、虫を一網打尽に燃え尽くす。
ややオーバーキル気味に念入りに焼く。吊るすために作成した物干し台諸共焼く。クソッ誰だこんなの作ったヤツは!
「半日で腐りやがって! この! ビビったし!」
はぁはぁ、と荒い呼吸で処分した僕は、昼間に時間を巻き戻せるなら自分にビンタしたい気分だった。
部屋に戻り、焼き魚を取り出して食べるが、正直もう食欲はなかった。さっきの腐臭がなぜかするような気がして美味しくも感じないしで、もう寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます