第22話 そうだお風呂に入ろう

 異世界に露天風呂を爆誕させた僕はユイファに頭のおかしい男として認定されつつあった。とても嘆かわしいことである。


 お風呂を知らぬものにお風呂の魅力を伝えるのは難しい。体験に勝る理解などないのだ。


 僕はさっそく薪となる木材を集め、竈に火をつける。土器なので熱の伝導率は良くない。でもちゃんとお湯は沸かせるのだ。お風呂ぐらいの温度など楽勝だろう。


「ユイファ見てろ、お風呂の魅力を伝えてやるからな」


 ユイファは微妙そうな顔をしてとりあえず頷く、少し眠そうだ。

 あたりは夕暮れ、もうじき暗闇につつまれてしまう急がねば。


「ウォーター」

「さっきも見たけど、マナブの魔法は便利だな」


 僕の手から水が噴水のように放出される。


「あ......」

「どうした?」

「いや......お風呂に水入れたら染み出て来たなぁっと」


 僕は浴槽の下部が水濡れのように変色しているところを指す。焼きが足りないか細かい日々が入ってたりするのかもしれない。


「土器とはそういうものだろう」

「そうなの?」

「うむ」

(それなら大丈夫なのか......?)


僕は気を取り直して魔法を唱え続ける。客観的にみて水量はすごいのである。

 とは言ってもMPは切れてしまうので、回復を待って何度も唱え直す。


「ウォーター」

「え? もうMPが回復したのか?」

「自分回復早いんで」


 ここぞとばかりに自慢してみる。


「マナブは変態だな」

「えぇ......」

「MPは休憩や睡眠をしないと回復しないぞ、マナブの体はどうなってる?」


 じゃぁユイファ達は魔物と戦闘する時に何度も魔法を使えないわけだ。まぁあれだけの威力なんだから一撃必殺も良いところだけど。

 継続戦闘力で言うなら剣士系の方がよいのかな? 



『ウォーターの熟練度が上がりました』


 何度も使ったおかげで熟練度が上がった。射程距離アップなので今回は必要なしだな。


 ちらっとユイファを見るけどウィンドウのメッセージはどうやら見えないみたいだ。


 それにしても水を溜める速度にお湯を沸かす速度が間に合っていない。

 これは適温になるまでに夜になるな。魔法でお湯とかできないのかな?


 ......え? 魔法でお湯? え??


「ファイアー」


 ウォーターの魔法に手を添えるようにしてファイアーを唱えてみる。火は出ないが湯気が立ち上る。


「お湯、でるんかーい」

「なんだ? 急にどうした?」

「いや、魔法のコツを掴んだ感じ」

「あぁ、私も1度経験があるぞ、長く燃やせるようになった」


 ふむ? ということはユイファのファイアーボールの熟練度はレベル1ということかな。普段は使わないと言っていたし熟練度上げは意識的にやってるわけではないようだ。


「ユイファのステータスってどんな感じなの?」

「私のステータス? ......下ネタか?」

「ちがいますーーー! 能力値のこと」

「今のは訊き方がいやらしく聞こえたぞ」

「それにしても下ネタはないでしょ」

「村の男には『俺のスティック』って言って腰ミノをピコピコさせる輩がいるからな」


 ちょっと待ってー、ピコピコって笑う。

 ステータスうんぬんの話がどっかに消えてしまった。


「なにニヤニヤしてるんだ。やっぱり変態だな」

「すべてピコピコが悪い」


 あぁもう、ユイファもステータス画面がや熟練度のポップアップが確認できるのかな? って確かめたかっただけなのに。こんなに脱線するなんて。


 僕のようにステータス画面とかのシステムが見えないなら。この世界をゲームの様に感じる事はきっとないんだろうな。


 そもそもゲームと言う世界観がないのだろうけど、間違いなくユイファにとってはここは空想世界ではなく、現実世界なんだ。


「そろそろ良いかな、湯加減は......少し温いか? まぁいいか」

「ふむ? 温かいな?」


 ユイファも湯加減を確かめて、『だからどうした?』っと首を傾げている。


「ユイファ、今から僕はこの中に入る。それがお風呂だ」

「は?」

「おっと、浴槽に入る前は、かけ湯をして体の汚れを落とすのがマナーだよ」

「はぁ?」


 僕は全身泥まみれなので、かけ湯では落としきれないだろう。でも大丈夫僕には魔法があるからね! ウォーターを使って衣服ごと水圧洗浄する。


「うわ、いきなり何をしてるんだ」


 魔法による洗浄は奇行と判定されてしまったらしい。

 次にユイファの前で脱ぎ始めたらそれこそ変態認定されてしまうだろうから今日は着衣したまま入ろう。


「こうやって体を綺麗にしたら、お湯に浸かるんだ」


 踏み台を上がり、浴槽の中にはいる。


 異世界住宅の匠はお風呂のこだわりもすごい。外付けの風呂なので大人3人は入れる大きさだ。

 浴槽の中には腰掛部分も作ったので座って浸かる事も横に足を伸ばして広々と使う事もできる。


「はぁ......。沁みるーーーー」


 久しぶりの浴槽に脱力して溶けていると、相変わらずユイファが微妙そうな顔で僕を凝視している。


「......私は今、何を見せられているのだ?」

「......」

「......」


 ......確かに、お風呂を知らない人の目の前で、湯に浸かって脱力してる姿を見せたら怪奇に見えるかもしれないね。


「川で水浴びじゃだめなのか?」

「川の水は冷たいじゃん」

「そういうものだろう?」

「そういうものだね?」

「最初に私も風呂に入って良いと言ったな」

「うん。でももう少し堪能させて」

「ゆとりはまだあるだろう、横に詰めろ」


 そういうや否やユイファは毛皮の腰巻を脱ぎだした。


「ちょ、ちょっとユイファ?!」

「なんだ? 毛皮はあまり濡らさない方が良い。まずは体を洗うのか? マナブ頼む」

「びっくりしたよ、ウォーター」


 ユイファに水をかけて洗い流す。ほんとは浴槽のお湯でかけ流す程度でも良いんだけど。今日のユイファは僕を手伝ったせいで泥だらけだ。


「泥が乾いてたからスッキリするな、では入るぞ」

「う、うん」


 ユイファが隣にならんで湯に浸かる。


「あ、なんか、これは良いな。不思議な感じだ」

「そうだろう、そうだろう。力を抜いてお湯に溶けるとなおよし」

「ふむ......」


 隣を見るとユイファが気持ちよさそうに目を閉じていた。


 髪が濡れているせいでいつもより違った雰囲気に見える。

 お風呂の中で距離も近いしドキドキして短時間でものぼせてしまいそうだ。


「「ふぅ......」」


 ため息が重なって、ユイファがご機嫌そうに薄く笑う。


「お風呂の良さ、伝わった?」

「あぁ、湯に浸かってるとたまに吹く風が心地よいな。この気持ちよさは父も試してもらいたい」

「そうだね、次はタジキさんも入れてあげよう」


 アイファが突然、ふふっと笑いだす。


「お湯に入れと言えば、父は変な顔すると思う」

「説明はアイファに任せるよ。僕がすると変態扱いだからね」

「あはははは」


 そうしてしばしのお風呂を二人で満喫するのであった。




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