第21話 そうだお風呂を作ろう
異世界住宅の匠は焦っていた。『お風呂はやっぱり家の近くが良いよね』という安易な考えのもと、マナブハウス横にお風呂を建設したのだが、近いがゆえに安易に焼けないのである。
ユイファに焼き固めをお願いしようなら、マナブハウスの屋根全焼の危機なのは想像に容易い。
やってしまった。でもやってしまったならしょうがない。
異世界住宅の匠はこういう時、失敗をデザインという隠れ蓑で誤魔化す事に長けているのである。
風呂とは、浴槽だけあれば良いわけではない。体を洗う場所も必要だし、リラックスできるプライベート空間であることが何よりも大事なのである。
住宅街のど真ん中に浴槽を置いて風呂に入るバカがどこに居るだろうか? いや、居ない。
今僕に必要なのはなにか? 壁だ。壁なのだ。
浴室、浴槽、脱衣室これらが組み合わさってお風呂場。わかったかい? ではリピートあふたーミー。
「おふろーばー」
「何をぶつぶつ言っているのだ」
「......ユイファ」
「また家を作ってるのか?」
「うぅ、作業が終わりません」
「普通家は1日ではできないぞ、それが普通だ。今日はあきらめろ」
「だってお風呂に入りたかったんだもん」
「気持ち悪い喋り方をするな」
「だってお風呂に入りたかったんだもん」
「繰り返すなっ、ばか者。そもそも風呂ってなんだ? 少し手伝ってやる。何がしたいんだ?」
僕はユイファでもわかるように丁寧に説明した。
「この建物焼き固めたい。火使う、屋根燃えそう」
「はぁ......」
僕は両手の人差し指を立てて、シュシュシュと前後させながら浴槽とマナブハウスの屋根を交互に主張した。
「それならそんな大がかりな壁を作らなくても、まずはここの壁だけ作ればよかっただろう?」
「ユイファ......君は天才か、発想が柔軟でオラびっくりしたぞ」
「だから変な喋り方をするな」
なんかもう、疲れがピークを過ぎるとテンションをおかしくしてないとやっていけないのである。
ユイファの手を借りて、サクサクっと部分的な壁をつくる。
冷静になってみれば浴槽も半地下に作ればよかったのでは? と思ってしまった。
いやいや、疲れすぎて思考がバグってるよ。そんな事したらお湯沸かすのどうするの? って話だ。これで正解なんだ。正解だよね?
畑づくりから直角に曲がってお風呂にしちゃったから。探せば反省点がボロボロ出てきそうだ。
「これくらい、あれば大丈夫だろう」
「ユイファさんやっちゃってください」
僕はへこへこしながら揉み手をしてユイファにファイアーボールの催促をした。
「......なんか今日のマナブはむかつくな」
「ユイファさんもお風呂に入れてあげますんで、ハイ」
「はぁ......。ファイアーボール」
ユイファはファイアーボールを唱えて浴槽を火で包んだ。
軽く着弾時に爆発してヒヤッとしたが焼いている間は状態確認のしようがない。頼む無事でいてくれ。
ユイファの魔法はあくまで、攻撃魔法だ。着火したところの火の維持は出来るが、そこから範囲を広げたり、狭めたりなどの加減は出来ないらしい。
ファイアーボールをの炎は燃え移らない限り魔力の供給を止めたら嘘のように火が消失するのである。
なので効果時間アップを活用すると火柱はメラメラと立ち昇る。わけで......。
「も、燃えてるうぅぅッッウォーター!」
結局火の粉が屋根に着火してボヤ騒ぎになって僕の渾身の消火作業が開始された。
1度魔法を止めたらクールタイムが発生するので安易に消す事ができない。
手から水を噴射してウロウロする僕と火を立ち昇らせてお風呂を焼結させるユイファ。
ここからはユイファのMPが先に切れるか、僕のMPが先に切れるかの勝負だ。
「いやーーッッ屋根が燃えるーーーー!」
「あははははは」
消火活動が間に合ってるのを良い事に慌てふためく僕をみて笑うユイファ。
本当に火事になったらユイファも罪悪感で慌てるだろうになんて奴だ。
僕が必死に火の粉と格闘していると、遂に土器風呂とも呼べるものが焼き上がった。
「あーー楽しかった」
「それは、それは、良かったよ」
「それで風呂とは結局なんなのだ?」
「簡単にいうとここに水を溜めて、竈(かまど)で火を焚いて湯を沸かすんだ」
「......鹿でも丸茹でにするつもりか?」
なにその発想怖いんですけど。大衆調理的な? 浴槽を鍋に見立てて囲むとか嫌なんですけどー?
「マナブ、言っておくが大きい動物は切り分けて茹でればいいんだぞ?」
「わかってるよ。動物を茹でるんじゃなくて、僕がこの中に入るんだ」
「......バカなのか?」
余計に心配されたぜ。
ユイファの頭の中ではマナブが上手に茹でましたー。っとなってるんだろうな。
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