第19話 やりたい事は多いけれど
夢を見た。僕はひとり暮らしを始めて可愛い彼女に優しく起こしてもらう夢だ。
まぁ彼女なんていたことないのですぐに夢だと気付いた。そして現実はそんなに優しいものでもないとわかっている。
思い頭を何とか起き上がらせて抗議する。
「ユイファ......」
「やっと起きたかマナブ」
「足で揺するのをやめて欲しい」
「寝坊は足蹴にされて当然の行いだ」
「それでも手で起こして欲しい」
「ダメだ。手がもったいない」
手がもったいないってそんな理由ある? 使っても減らないんだから活用していこうよ。
「もう父は準備ができているぞ、ついて行くなら早くしろ」
「......お肉が食べたい」
「マナブは狩りもできるのか?」
「できない」
「なら魚を獲りに行け、運が良ければ交換もしてくれるだろう」
「......そうだね」
働かざる者食うべからずってね。僕にとって最低限必要な仕事がすごく簡単でよかった。
日々生きるだけなら午前中の2、3時間働いたらその日の魚は獲れちゃうもんな。
いや実際はそれ以上やらないといけない事は多くあるのだけど、不便だし。もっと快適な暮らしを送りたいってばよ。
異世界に来たと言うのにやってることは冒険じゃなくて労働だな。
「......日本でも働いた事ないのに」
「なんか言ったか?」
「いいえ」
とりあえず、もう道も覚えたので悪いしタジキさんには明日から待たなくても良いと伝えておこうかな。そしたら寝坊できるようになるかもしれない。
(朝寝坊してもいい様に生簀(いけす)でも作ろうかな)
どうにか楽をするために考える。
面倒くさがりの可愛い一面のあるマナブ君である。
川に着いたマナブ君は今日もサンダーを唱えます。
「サンダー」
浮いてきた魚を締めます。もう手慣れたものですってね。余裕が出てきて余計なおふざけまで出てくる。
奥の方には大きな魚影が見えたりすのだけど、釣り竿でも作るべきかなぁ......。
でも、釣り針がないか、魚の骨で代用できたりしないだろうか、大きい魚って調理が難しいのかな?
魔物もでないし、動物も人の気配があるところには滅多に表れない。危機感がないせいか色々な雑念が出てきては通り過ぎていく、色々と思いは巡らせてみるものの相変わらずわからない事だらけである。
ユイファ達の住む村はRPGで言えば始まりの村か、時が止まっているような村で主人公たちは大志を抱いて出ていくのだろうけど、そこらへん僕は主人公してない。
多分だけどこの世界に冒険者ギルド的な組織はないと思ってる。
あるとしたら傭兵ギルドか、剣と魔法のファンタジーという世界観なのだから鉄製の武器があり文明もそこそこ進んでいると思うんだけどな、比較となる街がないから程度がわからない。
冒険者という職業がないと思ったのは、魔物がふざけた子供のオモチャを悪魔化させたような存在だからだ。
あれは生物ではない。どちらかと言えばゴーレムかロボットか。
倒せば魔水晶になるわけだし、あれを倒したとして利益などそうそう出ないだろう。
それにタジキさんなど村人の様子を見るに魔物を避けて問題なく生活できている。もう住み分けが確立しているって感じだ。
わざわざ魔物と戦うリスクを冒す必要がない。僕は......そろそろレベルを上げていきたいところではあるけれども。
木の棒+1だけが唯一の装備のまま戦いを挑むほど僕はお気楽にはなれない。
それにレベル上げ以外にやらないといけない事は多くある。
まずは生活基盤を作らないといけない。昨日は野草や木の実についてユイファに教えて貰おうと思ったんだっけ。
でも本当にやりたい事はレベル上げ。レベル上げにしたって魔物との戦闘の前に装備を作りたい。
装備作り......それもあるんだけど、枕とか掛毛布とかほしい。
寝るときに包まれる毛布があるのって大事だったんだ。睡眠の質が違う。僕が毎日眠いのはそのせいだと思う。きっとそう。
何から手を付けたら効率的か? 優先順位がつけられない。
朝起きるのが面倒だから生簀を作ろうかな? おや大きな魚がいるし釣り竿つくろうかな? レベル上げたいな、でも装備がないし、装備つくりたいな。その前に枕欲しい毛布欲しい。
一周回って今欲しいのは枕である。
(なんて言うか今僕が欲しいのって安全な暮らしなんだよな......)
死に急ぐことはないか、まずは手堅くやっていこう。
生活力のないやつが強くなったら行き着く先は山賊とかろくでもない存在だ。
「お帰りマナブ、今日もちゃんと獲れたか?」
「はい」
「すごいぞ、よくやった」
「マナブは何か欲しいものはあるか?」
「枕」
「まくら? なんだそれは」
枕を知らないのか、確かにユイファ達も枕なしで当たり前のように寝てるよな。
「んーじゃぁ毛皮かな」
「毛皮は貴重品だむずかしいぞ」
やっぱり物が不足しているよな......。
「例えば毛皮以外で地面に敷くものってあるかな?」
「い草の編み物なんかはどうだ?」
い草の編み物って、ござみたいなものかな丁度いいな。
「それがイイ」
「そうかついてこい。交渉してみよう」
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