第18話 慌ただしい異世界生活

 木を伐採した僕達は本格的に屋根作りを開始した。


 僕は結構なんでも器用にこなす方だけど、やり慣れているパンヤオには敵わない。


 骨組みを作る作業手順を熟知しているパンヤオの動作は滑らかで無駄がない。僕はほとんど木を押さえる係だ。


 パンヤオの指示したがって元気よく返事をして木を押さえる。するとなんていう事でしょう。自動で骨組みがあっという間にできてしまいました。


 僕がほげーっと木を押さえたり、保持したりしている間に、パンヤオは木を丁度いい長さに揃え、下準備を施して、固定し、組み立てていった。


 素晴らしいの一言である。


 マナブハウスに遂に屋根の骨組みができたところを見計らってか、ユイファがお昼ごはんを持ってきてくれた。


 料理をマナブハウスに持ち込み各々好きな位置に陣取るその前に、パンヤオとユイファは有言実行とばかりに壁穴に斧と壺を飾ってニヤニヤと眺めていた。こう言ってはなんだか似た者同士だよね。


「やっぱり斧を眺めながら食う飯はウマいな」

「私の焼き方がウマいのも忘れるな」

「そうだな、ユイファの料理がウマい」

「わかってるならいい」


 ユイファの焼き魚は見た目まる焦げだった。ひと目見た瞬間に『コイツ失敗しやがった』と思った僕は悪くないほどの見た目をしていた。


 だけれど、ユイファはどうやら魚のウロコをとらずに焼いたみたいで、黒焦げとなっている鱗と皮をボロボロと剥いでいくと中からはふっくらした白身が顔を出した。


 あんなに焦げた表面だったのにも関わらず、身はしっとりとジューシーに仕上がっている。

 ホクホクした身を口に運ぶと魚の旨味を感じられた。僕が串刺しにした焼き魚は身が乾燥してどこか川臭く美味しいとは言えない仕上がりだったのだけど、ユイファが調理した魚は一見手抜き料理に見えて美味しいのが不思議である。


 魚のウロコは取らないといけないモノだとばかり思っていたのだけど、皮を食さないなら取る必要はなかったのかもしれない。僕達はそれぞれ2匹の魚を完食して昼食を終えた。


 ちなみに僕は夕食用に別に葉に包まれたものがあったりする。


「だけど、パンヤオの技術はすごいよ。あっという間に骨組みが完了しちゃった」

「そうだろう。パンヤオはすごいのだ」

「......ふん」


 パンヤオ自身よりユイファの方が得意げに自慢してくる。


 ユイファは他人の技術を我が物顔で自慢してくるな。パンヤオも満更でもなさそうに手に顎を乗せてそっぽを向いている。


「ここまで出来たら、干し草編み込んで樹皮を被せていくだけだ。マナブよ今日中に完成すると思うぞ」

「それはよかった」

「パンヤオはもう不要だ。帰れ」

「おいっ」

「このお礼はいつか返すよ」

「要らん。魚をもらったこれで十分だ」


 簡単な作りとはいえ、魚が家づくりの対価になるなんてなぁ、まぁ価値観は人それぞれか。


 午後はユイファと一緒に家の完成目指してひたすらに作業を繰り返す。ここであった地味な作業は割愛するとして、日が暮れる前に無事にマナブハウスは完成した。


 ユイファと肩を並べて達成感に浸ることしばしば。中の具合も確かめる。


 家の中は半地下という事もあり、暗かった。今のところ光を取り入れる場所が入り口だけなので、入り口をふさぐと室内は真っ暗になる。


「暗いな」

「朝が来ても気付かないかもね」


 地上部の壁に穴を開けて光を取り入れることにした。異世界住宅の匠はちょっとしたリフォームもお手の物である。


 今日もユイファはマナブハウスの寝床を占領するのかと思いきや、あっさりと自分の家に帰って行った。


 なんでも屋根のある家で男女が二人きりで夜を過ごすのはダメらしい。

 言ってる意味はわかるけど判断基準が屋根というところが異世界だ。


「もう私は帰って寝る。おやすみ」

「おやすみ」


 ユイファが帰ったあと残していた焼き魚を取り出して、ひとり深夜食堂を開業する。


 冷めて固まった身も悪くない。でも魚だけだといくら食べても腹に溜まらないというか、お腹は満たされても満腹感を感じにくく物足りない。

 それに野菜も食べなきゃダメだろう。明日は食べれる野草や木の実などをユイファに教えてもらうか。


 そうして慌ただしい1日が終わるのであった。

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