第16話 僕はここにいるよ
村に戻った僕達を見つけてユイファが駆け寄ってくる。
「どうだった?」
僕はカゴを背から下ろしてユイファに手渡した。
「マナブはすごいな! 今日も大漁だ」
こうも純粋に喜んでもらえると結構嬉しいものだな。タジキさんはそのまま畑の方まで行き水を撒いて、また川に水汲みに行くとのことで朝は忙しいみたいだ。
「ユイファとタジキさんの分もちゃんと獲ってきたよ」
「ありがとう、でも私たちで食べるには多いな」
「そうだね。村の人にも分けれたら良いと思って」
「マナブは優しいな」
ユイファはカゴをもったまま歩き出した。それなりに重さもあるのだけど気にならないようだ。
「私はこれから魚を焼く、全部焼いて良いか?」
どうやら僕の分も料理してくれるようだ。せっかくなのでお願いしておこう。
「うん、お願いするよ」
「料理ができるまでどうする?」
「昨日の続き、屋根作りを始めるよ」
「そうか、干し草は集めて干しておいたぞ、作るなら骨組みの方だな」
「やってくれてたんだ。ありがとう」
ユイファと分かれて屋根制作に移ろうとして、いきなり躓いた。骨組みを作るのに材料となる木がない。木を切ろうにも道具がない。さぁ困ったぞという事でユイファのところに戻る。
「ん? どうした?」
「木がない、斧がない」
「変な言い方をするな。斧ならパンヤオが持ってる」
「パンヤオ?」
「ロロイの息子だ」
「ロロイ?」
「忘れたのか? 昨日魚を手渡した男だぞ」
「もちろん覚えてたよ」
「私の名前は覚えてるか?」
「ユイファ」
「うむ、忘れないように朝起きた時と夜寝る時に私の名を呼べ」
なんの儀式だよ。
「斧を借りるより、パンヤオに切ってもらった方が早い。頼みに行こう」
「わかった」
ユイファは魚の調理を一時中断し、同行してくれた。ロロイじいさんはやっぱり村の代表なのか村で一番大きな家に住んでいた。ユイファの家の2倍くらいの大きさだ。
「パンヤオは居るか?」
ユイファが声をかけると家から1人の青年が出てきた。身長は僕と大差ないが筋肉質だ。上半身は裸で蓑と毛皮できたものを腰に巻いている蛮族スタイルだ。日本で見かけたら目線を合わせたくないタイプで早速居心地が悪い。上腕二頭筋を誇示して『パワーっ!!』って叫びそうな髪型をしている。
「木がない、斧がない」
「はぁ?」
ユイファちゃっかり気に入ってたな。
「魚をやる、木をよこせ」
「別にいいけどよ、この時期になんに使うんだ?」
「マナブの家を作っている最中だ」
「お前は昨日の新入りか」
パンヤオが睨みを利かせて近づいてくる。
「なんでユイファと一緒にいる?」
「マナブは父が連れてきた。私は面倒を見るように頼まれたのだ」
パンヤオはユイファの話を聞いてドスを利かせた声で問い詰めてくる。
「おい、ユイファに甘えて面倒をかけてんのか?」
「それはない。今日もマナブは魚を獲ってきたし、家も自分で作っている」
「はぁ? こんなヤツが家を自分で作れるわけないだろ」
「パンヤオついてこい、マナブの家を見せてやる」
ユイファが得意そうに不敵な笑みを浮かべて腕を組む。
「パンヤオ、斧を持ってついてこい」
「わかったよ」
僕が一言もしゃべらないまま物事は進んでいく。今なら名脇役にノミネートされる可能性もでてきたぞ。
ユイファとパンヤオがわちゃわちゃ話ながら進んでいく後ろをポツンとついて行く。僕の芸名はポツンとマナブが良いだろうか。
思い返せば友達と遊びに行くときも似たような構図になっていた。例えば3人で道を歩く時、横一列になって移動するのは横幅がそれを許さない。僕は自分から話題を振るような性格をしていないのでカウンターが主体、ボケかツッコミかと言われればツッコミ。
しかし、受け身男子はしばしば、会話に入れないことが起きる。そうなった場合会話をする2人は先頭に、僕は殿を務める。2-1スタイルとなる。
殿を務める僕は後ろに位置しているので先頭のふたりの様子を常に僕は見ているわけで、彼らの背後に忍び寄り『ねぇ? 僕はここにいるよ?』と地縛霊みたいな事を言いたくなったりもする。
この小さな村は狭い。昔を懐かしんでいるうちにマナブハウスに辿り着いた。
「見ろ、パンヤオ」
「うぉぉぉぉぉ?! なんだこれぇぇぇすげぇぇえ!」
パンヤオよ、君は実に素晴らしいリアクションをしてくれるね。ユイファも自慢げに鼻高々と言った感じだ。いいぞもっとやれ。
「なぁ! 中に入って良いか?」
「良いぞ」
(......いいよ)
アイファが勝手に許可を出す。僕は2人の邪魔にならないように静かにピッタリと背後について歩く。
『.....ねぇ? 僕はここにいるよ?』
パンヤオは中に入ると昨日のユイファと同じ反応をしていく。ユイファは自慢げに説明していた。
「おい、この壁の穴は何だ? 何に使う?」
「ふふ、そこには道具や毛皮など大事なものを置く場所だ」
パンヤオは自分の斧を壁穴の中に収納した。
「......斧が、カッコよく見える」
「ヤバいなこれは、ちょっと待ってろ!」
ユイファは突然家を飛び出したかと思ったら、壺を抱えて持ってきて壁穴に収納した。
「壺がカッコよく見える......」
「マジかよ、これを眺めながら飯くったら、うんめぇだろうな」
パンヤオよ飯が上手くなるってどんな感性してるんだ。
「そうか、なら今日はここで飯を食っていけ、マナブが捕まえた魚があるぞ」
「マナブ、おめぇすごいヤツだったんだな」
「いや、それほどでも」
さっきまでの剣呑な雰囲気はどこにいったのか、急に好感度爆上がりである。
「では、私は魚を焼いてくるから、パンヤオはマナブを手伝ってほしい」
「あぁ飯まで食えるってなら良いぜ、手伝ってやる」
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