第15話 すごいよタジキさん
僕は早朝からタジキさんと共に川に来ている。
「サンダー」
僕が魔法を唱えると指先から細い雷撃が放たれて水面を撃つ。
すると痙攣した魚がプカプカと浮いてくるのでそれを回収する簡単なお仕事である。
簡単なので今日も多めに魚を獲る。タジキさんとユイファの分、それとまだ交流は少ない村人の分も少々。
魚の持ち運びはユイファがカゴを作ってくれたので随分と楽になりそうだ。
どうやらタジキさんは農業をしているらしい。毎日畑に撒く水をここまで汲みに来ているみたいだ。
それも他の住人の分まで汲みに来ているようで働き者である。
村の中ではタジキさんが1番の力持ちらしい。
でも僕の考えではこういった面倒な作業こそ魔法の力で何とかするものだと思ってしまう。
毎日川に水を汲みに行かなくても魔法で水を作ればいいと考えるのは僕がずれているのだろうか?
昨日、魔法で水を作り出し喉の渇きを潤した。
味は苦味を感じて決して美味しいものではなかったけれど今のところ体に不調はない。
それともやはり、魔法の水を飲み過ぎたら異変がでてくるのか? わからないことだらけだ。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、どうして畑の水を魔法で補わないのですか?」
「......また当たり前のことを」
タジキさんは僕のカゴをみて妙な納得をした。
「マナブは変わった魔法の使い方ができたな。攻撃魔法は普通、そんな使い方なんてできない」
ん? 攻撃魔法? 魔法ではなく? 攻撃とつけたのは僕にわからせるためだろうか?
「もしかしてマナブは他の人の魔法を見たことがないのか?」
「......あまり」
魔法を見たのはユイファのファイアーボールだけだ。
「そうか、俺は水の魔法が使える」
「え、そうなんですか?!」
「いいだろう、良い機会だ見せてやる」
おぉこの世界の一般人がどの程度魔法が使えるのか、参考にできるぞ。
「ウォーターボール」
タジキさんの目の前に両手で抱えるほどの水球が出現する。
手から放たれた魔法は5mほど離れた地面に着弾した衝撃で勢いよく小石などを弾き飛ばした。
威力がえげつない。
着弾跡には抉られた地面に水溜りができてるほどだ。
タジキさんって大魔法使いの家系かなにかですか??
「コレが一番弱い威力の魔法だ。こんなものを畑にやれば作物がダメになる」
「そう......なんですか」
「マナブは水の魔法も使えるのか?」
「はい、一応」
これは魔法を見せる流れなのかと、しぶしぶ魔法を唱える。
「ウォーター」
これでもか! というほど力んだ甲斐あって僕の手からは水が勢いよく噴き出す。
ジャ――――ッ! とそれは、それはジャーーーーッ! と出たと伝えておこう。
殺傷力は皆無だが現代日本で人に向けるならかなりの脅威となること間違いなしである。
ただタジキさんの可哀そうな人を見る目が辛い。
ッッ恥ずかしいです!
「色々使えるのは良いが、魔物と出会った時どうする」
「......」
「いや、すまない。普段の暮らしならマナブの魔法の方がいいな。ただ生きていれば必ずジャシンに遭う。普通は属性は1つに絞り濁りを消して魔法の威力を高めるだろう」
濁りを消して魔法の威力を高める? もしかして魔法は限定されるほど強化される......?
もしそうだとしたら異世界無双終了のお知らせである。
「例えばですけど、魔法の水は植物に悪かったりしますか?」
「さてな、魔法を放った場所の植物が枯れたなどの話は聞いた事がない」
......それならまだ望みはあるか? 異世界賢者はチートスキルで農業を無双する。にプラン変更もあるなこれ。
とりあえず邪神との遭遇は完全回避の方向でお願いします。
「マナブは森の中に入る時は注意しろ、どこに魔力溜まりがあるかわからない」
「そうですね」
異世界にまできて、物語の主人公のような心躍る大冒険を期待していなかったと言えば嘘になる。
ただ今のところ現実が厳しすぎて心は傷ついてばかりだよ。
「傷ついた心にヒール」
「......?」
心にヒールしたらなんだか元気がでてきた。調子にのってヒールを連発する。
(疲れた足にヒール、肩こりにヒール、日焼けしそうな肌にヒール)
『ヒールの熟練度が上がりました』
この世界では人と比べるのをやめて、自分のやり方を模索してみよう。
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