第14話 新しい暮らし
「マナブ起きろ」
「......ん」
誰かが僕をゆすって起こす声がする。なにか香ばしい匂いがほのかに鼻をかすめる。
「マナブごはんだぞ」
この声はたしか、ユイファ......。そうかユイファが起こしてくれてるのか。
僕はぼんやりした覚醒で頭を揺らしながらどうにか起き上がる。
まだ寝足りないがうっすら外が明るくなってきているのが分かる。
暗くなってからすぐ寝たから早起きするのもわかるけど、僕は朝が苦手なんだよな。
どうにかこうにかユイファを見上げると、葉っぱを持ったユイファが隣に立っていた。
「ユイファ」
「マナブは朝寝坊だな」
......コイツ、足で僕をゆすってたな。
「ほら、朝ご飯だ食べろ」
ユイファは手に持っていたお皿代わりの葉っぱをグイっと近づけてくるので、葉っぱの中身を覗いて確認する。
「うわぁ~~~~。芋虫だぁ~~~~」
「カリっと焼けてるからうまいぞ」
なんか香ばしい匂いがしてたなーーー~~っとは思ったけどこれか、芋虫か、うん動画で見たことあるよそういう昆虫食みたいなの、なんかコオロギを食べようっていう感じの流れもあったし、農作物を荒らすイナゴも貴重なタンパク源だったって聞くし、美味しいなんて声もあるよね。
でもなぁ、僕にはまだ芋虫を食べる勇気はないかなぁ。
「ごめんユイファ僕は朝は食欲なくて食べないんだ」
「そうなのか? 朝はお腹が空くもんだろう?」
「僕はどちらかと言えば、昼と夜に食事をとる生活をしていたんだ」
「マナブはやっぱり町の出身なのか?」
んーちょっと困る質問だ。どう答えたらいいものか。適当に返事してればいいか。確かめようもないんだし。
「そうだよ」
「そうか、町の話は聞いた事がある。町では魔物の多く出るし強くないと生きていけないらしいな」
「......ん?」
「すまない。マナブにとっては辛い話だったな。町は守らないといけないからジャシンと戦わなければならないって。
それに失敗してやられたら1日で町は滅ぶ。大きい町ほど復興が難しいと父から聞いた」
ユイファから出る言葉、『ジャシン』とは何だろうか、一番想像しやすいのは邪神だよなやっぱり。
つまりは魔物の神様的な存在と戦う事態が度々起きているという事なのか? 穏やかじゃない話だ。
白い空間でも光の軍勢と闇の軍勢で争いが続いているという事も言っていたな。それと関係あるのだろうか? よくわからない。
僕は剣と魔法のファンタジー世界と聞いて魔物がウヨウヨいる世界をイメージしていたのだけど、魔物と出会ったのはチュートリアルの1回のみで、僕が襲われたのは野犬だった。あれはどう見ても魔物ではなく動物だろう。
この世界はもっと冒険者がひしめき合って富と名声を得る為に人と人とが争う殺伐としたものだと覚悟していたのに、こういってはなんだけど暮らしは貧しいが平和なような気がする。
「どうしたマナブ?」
「っあ、いや、また眠りそうになってた」
「食事はホントにいらないのか?」
「うん、僕は大丈夫だからユイファが食べて」
「......そうか」
ユイファはこんがり焼けた芋虫を当然のように口に運び、スナック菓子でも食べるかのように咀嚼した。
(んー、気軽く食べてるな)
「父はもう、水汲みの準備を始めている。マナブはどうする?」
(夜明け前のこんな時間から......そのおかげで僕は助けられたのか)
「マナブ寝るのはダメだぞ」
「わ、わかった。今日も魚を獲りにいくよ」
「うん、楽しみにしてる」
(これは、ユイファの分も獲ってこいって事だよな。もともとそのつもりだけど)
「これをやる。マナブの為に昨日作ったカゴだ。魚を運ぶのに使うといい」
「すごいな。ユイファはこんなのも作れるんだ、ありがとう」
褒められてユイファは自慢げにしている。ユイファが作ったカゴには肩掛けもついており、リュックのように背負えるようになっている。丁寧に編み込まれて作らているのでかなり丈夫そうだ。
カゴを担ぐとユイファは満足そうな顔で僕をみつめてきた。
「タジキさんと川に行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
この村が平和なのは良い事だけど生活水準が低すぎる。
僕には日本での暮らしという知識がある。生活の底上げは異世界転生者の醍醐味のひとつだろう。
まぁ邪神は気になるけど、魔王討伐のような使命があるわけでもないのなら、それこそ落ち着いたら世界を旅するのも良いかもしれない。
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