第7話 危機的状況
......声が聞こえる。
『おい! 大丈夫か!』
......これは、僕が死んだ時の記憶......?
そうだ僕は津波に飲み込まれて死んだのか。あの時あきらめずに走り続けていたなら助かったのかな。
いや、あんなギリギリな状況になる前にもっと危機感を持って行動すればよかったんだ。
自分だけは大丈夫そんな、何の保証もない、根拠のない自信のせいで、取り返しのつかない間違いをしてしまったな。
『っくそ! あっちへ行け!』
―――ひどいな。そんな風に言わなくても。
「俺たちはお前なんかの食い物じゃない!!」
叫び声にハっと覚醒して飛び起きる。混乱した頭で周りを見渡す。
川近くの土手にいる自分に対して、なんでこんなところに? と思った瞬間自分の状況を思い出した。
見知らぬ人が僕を背に守り野犬らしき動物と対峙している。
反射的に間に飛び込み魔法を放つ。
「ファイア!」
左から右へ腕を振り払い、炎が空間を赤く染める。
相手まで距離があるので届かないが威嚇としては効果的だったようで、野犬が警戒して下がる。
もう一度ファイアを使いたいところだが、9秒のクールタイムで使えない。
それなら違う魔法はどうだと試みる。
「サンダー!」
指から出た細い雷撃が野犬の鼻を掠めたのか、甲高い悲鳴を上げて野犬は逃げていった。
野犬の姿が見えなくなってから後ろを振り返る。
そこにはくたびれた姿をした男が立っていた。お互い見つめ合ったまま気まずい空気が流れる。
「あ、あの助けてもらったみたいで......ありがとうございます」
僕が深々と頭を下げたことで男の警戒心がとけたのか空気が緩む。
「いや、いい。どうしてここにいる?」
なんて説明したらいいのだろう? 異世界転生して見知らぬ土地へ飛ばされてしまったと言えば頭がおかしいと思われてしまうか、変な誤解を生んでしまうかもしれない。
「......ゆく宛てもなく彷徨っていました」
「そうか、はぐれか」
簡単な説明にもかかわらず男は理解を示した。こういった状況も珍しくはないのだろうか?
「これからどうする。宛てがないのなら俺たちの集落に合流するか?」
「いいんですか?」
「見捨てるわけにもいかない。1人で別の地へ行くなら止めないが」
「合流させてください。お願いします」
他に頼れる人もいない。向こうから提案してくれたのは単純に助かった。
「そうか、俺はタジキだ」
「僕はマナブです」
「水を汲むから少し待っていてくれ、集落は物資が少ない。食糧となる木の実でも集めてくれると助かる」
男は巨大な壺を担ぎ直して移動し、川の水を汲み始めた。
(木の実といっても何が食べれるかわからないな。食糧で良いなら昨日食べた魚でもいいかもしれない)
僕は既にクールタイムが完了していた魔法を放ち、昨日同様に魚を回収しては魔法を放つを繰り返して魚を集めた。
「......大漁だな、どうやったらこんなにとれるんだ?」
説明を求めて来たので、実際にやってみせる事にした。
「サンダー。こうやると魚が気絶します」
「そんなに威力を抑えられるなんて器用なんだな」
男の言葉に傷つく。
威力を抑えてるつもりはないのだけれど、僕の魔法はそんな言葉がでるほどに弱いのだろうか。
「そういえばさっき、火の魔法も使っていたな」
「魔法は色々と使えますよ。ヒール」
僕はタジキさんに多く切り傷があるのを確認してヒールを発動した。しかし古傷だったのか傷痕は消えなかった。
「回復魔法まで、そうか色々な属性を取り入れてひとつひとつの威力を下げたのか変わった使い方をするやつだ」
(......ん?)
「魚はそれくらいで十分だろう。これ以上とっても運ぶのに苦労する。
タジキさんは手ごろなツルを引きちぎり魚のエラに通してひとまとめにした。僕にはない発想で関心する。僕はなにか入れ物になるものを探す必要があると思っていた。
魚を両手に持ってタジキさんの案内に従ってついていく。
異世界の町はどのようなものなのだろうか、人がいる場所に行けることにホッと安心した。
「マナブ、その魚だが集落にいる人達に渡しても良いか?」
「もちろん、そのつもりです。ひとりでは食べきれないので」
「俺たちにそんな上品な言葉使いは不要だ。マナブの身なりからしてこれまで良い生活をしていたことはわかるが、集落にいる人間で礼儀の正しい者は少ない。気を悪くすることもあると思うが問題は起こさないでくれ」
「僕はタジキさんに助けてもらった恩があります。問題を起さないと約束します」
「そうか」
すでにできあがった集落で異世界人の僕はちゃんと受け入れてもらえるだろうか。
僕には全魔法というチートスキルがある。何か問題があっても僕なら対応できるはずだ。
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