第3話 ニューワールド
真っ白な空間からパッと風景が切り替わり地面に着地する。
舞い上がる土埃と肌を撫でる風、息を吸い込むと深い新緑の香りがした。あたり一面は少し拓けているが木々に囲まれた森の中だとすぐにわかった。
【チュートリアル】
目の前に存在を主張するようにまたしてもウィンドウが開いている。顔を動かす程度なら反応しないのだが、体を動かすと体の向きに合わせてウィンドウも移動してついてくる。
僕は用心深く周囲を見渡し危険がないことを確認してからウィンドウをタップした。
『冒険を始める前に状況を確認することは大切だ。ウィンドウを操作してステータス画面をチェックしよう』
指示に従って操作するとステータス画面が開いた。
朝凪 マナブ Lv.1
混濁の魔法使い
HP 10/10
MP 10/10
ちから 5
みのまもり 5
かしこさ 8
すばやさ 6
きようさ 10
たいりょく 100
ステータスを確認して愕然とする。このステータスは普通に考えてもLv.1のステータスである。
体力の数値だけ異常に高いが僕のチート能力はどこへいった。
イヤな汗を拭いて次々と確認を続けていく、装備画面を確認するが何も装備していない。持ち物を確認しても当然のことながら画面上には何も持っていないと表示されている。
唯一魔法だけはファイア、アイス、ウインド、ストーン、ヒールの様にいくつかの魔法の表示があった。ざっと確認したところ全て初級の魔法のようだ。
ステータス画面を閉じると新たなウィンドウが表示された。
『どうやらここには魔力溜まりがあったようだ、目の前に魔物が出現する。力を駆使して魔物を倒せ』
「ッな?!」
言いたい事だけ言ってウィンドウは勝手に閉じられた。ひらけた視界の先には空間がねじれたような歪みがある。
戦えというには説明がなさすぎる! 魔法はどうやって使ったらいい? それに装備だってなにもしていない。
僕は反射的に足元近くに落ちていた木の棒を拾い上げて構えた。
空間の裂け目からボトリと何かが落ち、カタカタと軋みを上げながら立ち上がった。
魔物と呼ばれたそれは、不気味な子供のオモチャのような形状でカタカタと口を動かしながら固い動きでゆっくりと近づいてくる。
「こんなオモチャがあったら子供は泣くぞ」
不気味な形をしているが強そうではない。動きもゆっくりだし、チュートリアルで出てくる魔物だ。
大丈夫きっと簡単に倒せる。
僕は木の棒をギュッと握りしめ、魔物に向かって走り出した。魔物の手前で大きく踏み込み腰をひねって勢いのまま振り切るように木の棒で魔物を叩く。
ガッと鈍い音と手にはジンッと痺れるほどの衝撃が伝播してくる。
魔物は打撃の衝撃で体を浮かしゴロゴロと土煙を巻き起こしながら吹き飛んだ。
「やったか?」
わかってる「やったか?」の8割はやれてない。予想通り魔物は体を軋ませながら立ち上がった。それなら何度だって叩いて壊すまでだ。
ただ予想外だったのは起き上がった魔物が狂ったように走り出し僕に飛びついてきたことだった。
「うわぁっ!」
魔物は僕の首を狙うように跳躍し、パッカリと大きな口を開いた。
びっくりして反射的に腰が引けた不完全な防御態勢をとってしまう。魔物の攻撃から身を守るように反射的に腕でガードした。
「痛っってぇぇぇぇえ!」
魔物は僕の腕に噛みついてギリギリと音を立てた。それだけじゃない腕からはミシミシと骨の悲鳴が聞こえてくる。
腕が折られる? 嚙みちぎられる? 尋常じゃない痛みに絶叫を上げ、木の棒を手から落とした。
ゲームを匂わせる演出にどこか現実感が欠如していた。冷静でいるつもりで放心状態だったんだ。
突然独りで放り出された状況を考えないように思考を放棄していた。
だってしょうがないじゃないか、説明が不十分なんだ。ゲームなのか現実なのかも曖昧な世界で、何で僕が選ばれて、どうして戦いを強いられないといけないのか。
この状況や待遇に僕は何ひとつ納得なんてできていやしない。
視界が警告するように黄色く点滅する。
視界の端にはHP7の表示から追加でダメージが入りHP4となり赤い点滅へと変わった。嘘だろ?! 腕がどうこうじゃないこのままだと死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
「っっファイアぁ!」
無我夢中の僕の叫びと共に手に灯った火を魔物に押し当てて焼き焦がす。
魔物も熱さは感じるのかジタバタと身をもがくが噛みついた腕を離そうとしない。
その間にも僕のHPは3、2、1と減っていく。ガリっと僕の腕から血飛沫が舞ったのと同時に魔物は全身に炎がまわり水晶の欠片となり砕け散った。
【魔物をたおした】
経験値2を手に入れた。
魔物は魔水晶の欠片10を落とした。
朝凪 マナブ Lv.1
混濁の魔法使い
HP 0/10
MP 7/10
ちから 5
みのまもり 5
かしこさ 8
すばやさ 6
きようさ 10
たいりょく 91
*ひんし
魔物を倒した僕のHPは既に0となっていた。
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