第2話 スキルの選択

 僕達はそれぞれの前に表示されているスキル一覧を確認しながら、何を取得すべきか意見を言い合った。


 幸いなことにゲームに慣れ親しんだ僕達にはスキル取得が今後どのような影響を及ぼすのか理解があり、混乱が少なかったことで話はスムーズに進んだ。


「ねぇ、これから行く世界がどんなところなのかわかんないけど、私たちはパーティを組むべきだと思う」

「ミライちゃん、私も同じこと思ってた」

「まぁ、女の子だけってのは不安に思ってたから俺は良いぜ」

「僕もみんなと一緒に行動できるなら安心かな」


 みんなの意見は一致していた。それを決定するようにセイヤが言葉を引き継いだ。


「それじゃぁ、それぞれの役割を意識してスキルを獲得してみよう。わからないところは相談するように」


 こくりと頷き真剣にこれからの事を考える。


 異世界転生ではチート能力を活かして冒険者として活動するか、生産系のスキルを獲得して現代知識チートで成り上がるかが王道のパターンだ。


 しかしながら、これから行く世界は戦争がテーマになっている。

 個人で戦える能力がなければ死ぬのは間違いない。ここはやはり戦闘系のスキルを充実させる方が良いと思う。


 僕は剣士タイプというよりは魔法使いタイプの方が性に合っている。


 RPGで好んで選ぶ職業は賢者ばかり、攻撃魔法と回復魔法が扱える万能なキャラが活躍する場面は多い。

 一撃の火力は魔法使いが強いし、回復量も僧侶の方が多い。しかしそれは誤差の範囲内だ。


 上級の魔法はそれだけで下級の魔法の威力を上回る。上級職である賢者が使えないわけがない。


 黒魔法と白魔法のように攻撃と回復で分かれていたなら二つをとろうと考えていたが、どうやら属性別に分かれているようで困る。


 このような場合、水魔法が変幻自在であり万能で、また水には癒しの力があるという可能性も高い。



「あれ?」

「どうしたケンジ?」

「いや、なんつーかこれ選べるの3つまでだわ」


 ケンジの言葉でスキルスロットの数を確認する。スロットの数は4つだ。


 スロットをひとつずつ選択していくとスキルの表示が切り替わっていく。最後のスロットだけは選択不能になっているようだ。


 どうやら組み合わせの自由はあるが、膨大なスキルを取得するような工夫はできないらしい。


「組み合わせのパターンが3つだけなら選択肢は限られてくるな」

「まぁいいや、俺は一足先にスキルを確定してみるぜ」


 ケンジはスキルを確定したのか腕を組んで様子を見守っている。


「お? スキルが確定して4つ目のスキルと職業が現れたぞこいつは自動で決まるみたいだ」

「あの、参考に見せてもらえないですか?」

「ん? いいぜ? みんなもみるか?」


 僕達はケンジの回りにあつまり、ウィンドウを覗き込んだ。



ケンジ

職業 剣聖


適正スキル 究極剣技

ユニークスキル 絶対強者

資質スキル 身体能力ブースト

才能スキル 天武の才




「け、剣聖......」

「すごい」


 剣聖なんて、あたりも大当たりだ。単純に強そうなスキルの組み合わせだけどシンプルだからこそ王道的に強い編成になったのかもしれない。


「あの、今度は私が確定してみます。わたし戦闘なんて無理だからゲームではヒーラー役がほとんどでもう取りたいスキルの方向性も決まっているので」

「ユナコはそうなんだ、私はいつも火の魔法使いなんだ。スキルが決まったら一緒に確定しよ」

「うん」


 ユナコとミライもスキルを決めて確定を押した。




ユナコ

職業 聖女


適正スキル 回復魔法

ユニークスキル 聖なる加護

資質スキル 癒しの手

才能スキル 聖女の才




ミライ

職業 火炎の魔導士


適正スキル 究極火魔法

ユニークスキル 一点集中

資質スキル 魔力ブースト

才能スキル 天魔の才



「やや、聖女だなんてすごいじゃんユナコ! 私の事もいっぱい回復してね」

「ケガしないのが1番だよ。でも回復なら任せて」

「あとは俺とマナブか、俺は剣と魔法の両方を使いたいな。魔法剣士になれるといいけど」

「僕は目指すなら、攻撃魔法と回復魔法が使える賢者になれたら良いなって思ってる」



 僕は賢者になるべく最適な組み合わせを考えた。こういった効率を重視したスキル編成は得意だ。


 適正は【全魔法】一択。明らかに規格外のスキルだ。賢者になる条件のひとつはおそらく【全魔法】に違いない。


 ユニークスキルには魔法使いと相性の良い【消費魔力軽減】にするとして、資質は【魔力ブースト】がミライさんが選択した後に使用不可になった。それなら【MP自然回復】が良いだろう。


 これでどんな状況にも対応できて、常に魔法を使える隙の無い組み合わせになったはずだ。


 3人とも間違いなく最上級職になっている。プロローグでは救世主が示唆されていたし、もしかしたらそこらへんは優遇されているのかもしれないな。

 僕が賢者を取るとして、だとしたらセイヤはきっと......。



セイヤ

職業 勇者


適正スキル 固有魔法

ユニークスキル 破邪の加護

資質スキル オールラウンダー

才能スキル 勇者の素質



「......勇者、なんだか恥ずかしいな」

「でもなんとくイメージピッタリって感じ」

「じゃぁ最後は僕だね」


 セイヤは予想通り勇者としての役割が与えられたな、スキルの選択は誰にどの職業を割り当てるかの判断材料にされたのかもしれない。


 僕は半ば賢者を確信して、決定ボタンを押した。



マナブ

職業 混濁の魔法使い


適正スキル 全魔法

ユニークスキル 消費魔力軽減

資質スキル MP自然回復

才能スキル 器用貧乏


「賢者じゃない?! そんなはずは......器用貧乏って......」

「混濁の魔法使いだからなにかすごいのかも?」


 魔法使いか、ミライさんの職業が魔導士になってるから、魔法使いというのはおそらく下級職。


 スキルの組み合わせの相性が悪かったのか、消費魔力軽減とMP自然回復の相乗効果によるメリットに目を向けていたけど、もしかしてデメリットの方が強かったのかもしれない。


 もう一度スキル一覧画面に戻るが決定はキャンセルできない。


「あははは、まいったな。やり直しは......できないみたい。なんだかごめん、上手くやろうとして失敗した」

「まぁなっちまったもんはしょうがねぇよ。ゲームと同じ世界ならレベルを上げれば強くなる」

「そうだよ、マナブくん」


 明らかな才能の差。慰めの言葉が痛い。


 悔しさと不甲斐なさがこみ上げてきて目頭が熱くなってきた。気を緩めたら涙が出てしまいそうだ。



【スキルの登録が完了しました】


『これで準備は整いました。転送の準備を開始します』


「あーなんだか緊張してきたよ。落ち着かない」

「大丈夫、ユナコ。ここで出会えたのは運命だよ一緒に頑張ろ」

「ありがとミライちゃん」

「まさか死んだ後に、人生が続くとはな俺が剣聖っていうなら思いっきり暴れてやんよ」

「そうだね。僕も勇者の肩書をもらった以上できる事はやるつもりだよ」



『スキル適正により種族を確定します』



『光の軍勢、勇者セイヤ、聖女ユナコ、剣聖ケンジ、火炎の魔導士ミライ』


「え?」「は?」



『闇の軍勢、魔眼闘士トウヤ、邪魅姫メイ、簒奪王レンジュウロウ』


「ねぇ、あの3人が闇の軍勢ってどういうこと?」

「さすがにこれは予想外だぜ」


『無所属 混濁の魔法使いマナブ』


「僕だけどうして?!」


 嫌な予感はしていた。僕だけ単独行動なんてこの仕打ちはいくら何でもひどすぎる。


『願わくば、あなたたちが世界を導く救世主とならんことを......』


 僕たちの足元には魔法陣が現れ強い光を放った。




【......個人識別データをデリート】

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