異世界に来たけど冒険できないー仲間はずれのスローライフー

シルア

異世界転生編

第1話 アバター作成

【新しい世界のアバターを作成してください】



 その声に意識が覚醒する。



 真っ白な空間に自分が浮いていてゆっくり回っているのが見える。どうして自分を俯瞰してみることができているのかわからないが体に触れると僕の意識は体に吸い込まれて視点が変わった。


 ストンと地面に降り立ち、体を動かす。肉体としての感覚が鮮明になっていく。


 何もない白い空間で思考力もないままぼーっとしていると、何かが落ちる音がした。


 音のなった方へ視線を移すといつの間にか人が立っていた。



 その男は、さっきの僕と同様に体を動かして不思議そうにしている。

 手を開いたり握ったり、足を持ち上げてみたり、腰をひねったり、彼が動く様子をぼーっと観察していると、あちらも僕に気付いたようで視線があった。


「......?」


 彼が口が小さく動いたのと同じタイミングで、何もない空間から突然人間が現れて床に着地する。


 僕達は何もない空間から、次々と現れる人間をただボーっと眺めていた。



 この空間に現れた人間は僕を含めて8人。



【アバターの作成が完了しました、魂魄データの読み込み開始】



 次々に記憶が蘇る。僕の名前は朝凪マナブ。最後に覚えているのは、地震直後の津波に飲み込まれた記憶。

 大きな揺れだった。何をして、どう逃げればいいのかわからなかった。自然災害は自分には関係のないことだと思っていた。


 僕はなんでもできると変な自信を持っている。その癖に、何にもできない。


 優劣を決められるのが嫌でヘラヘラとしながら生きていた。何事も本気でやらなければ、負けた時に言い訳が立つ。本気を出して負けるのが耐えられなかった。


 僕は津波が迫った時に『無理だ』とあきらめて走るのを止めた。まだ、足は動いた。

 死ぬ気で頑張ればもしかしたら生き残る可能性もあったのかもしれない。


 ......でも、死に物狂いで頑張った挙句ダメだったら?


 苦しんだ分だけ損である。


 人生を巻き戻すように、印象の強い後悔がフラッシュバックする。


 ―――努力は必ず報われる。


 そんなことはない。


 人には向き不向きの適性がある。適切な努力がある。そして必ず才能がある。


 

 なんだって最初は上手くいく。でも後半の難しくなるところでの踏ん張りが効かないのだ。

 僕はいつもゴールを目の前にして心が折れる。


 下手に最初からなんでもできてしまうからわかる。自分より優れた人間が必ずいる。中途半端な才能のせいでこいつには敵わないと気付いてしまう。


 とめどなく記憶がながれ込んで、僕の人格を形成する。生前の後悔の念で心がざわつく。



【ペルソナの形成が完了しました。感情値を初期値へリセット。再起動開始】



 ―――1度意識が途切れ、ゆっくりと目を覚ます。


「え? なに?」


 目が痛くなるような強烈な純白の世界に寝起きの頭が混乱する。


 ここはどこで、どんな状況なのか全く見当もつかない。

 周りを確認すると僕と同様に戸惑っている人がいることがわかる。現状を把握できている人物はいるのだろうか?


 普通じゃない状況に嫌な緊張で体はこわばり、焦燥感から心臓がバクバクと警戒音を鳴らしてくる。これは何かがおかしい。


 頭では一刻も早く近くの人に話しかけて状況を尋ねたい。しかし見知らぬ人物へ話しかけることに対して人見知りな一面が顔をだした。

 話しかける前にまずは気持ちを落ち着かせないとと言い訳をする。


 しゃがみ込んで目を閉じ、深呼吸を繰り返す。


(落ち着け......大丈夫、落ち着け、おちつけ......)

「君、呼吸が苦しそうだけど大丈夫か?」


 突然背後からの呼びかけにびっくりして体が跳ねた。

 本当に息苦しくなるほど高鳴る心臓をおさえ声の主を確認するためにゆくりと後ろを振り返る。


「だ、大丈夫。ちょっと混乱してて気持ちを落ち着かせようとしてた」

「そっか、立てるか?」


 さっと差し出された手を掴み引き上げてもらう。


「俺はセイヤ、よろしくな」

「僕はマナブ、こちらこそよろしく」

「なんで俺たちがここに集められているかわかるか?」


 それは僕の知りたい事だ。知らないと伝えるために首を横に振った。


「そうだよな......1度ここにいる人達と合流しよう」



 願ってもないことだ。もしかしたら彼もひとりでは心細く、僕に1番最初に話しかけたのかもしれない。

 僕は彼の言葉に同意して散らばっている人たち全員と合流した。



 この場所に集められた人たちで現状を把握している人はいなかった。非現実的なこの空間を推察してポツリと吐き出された言葉。


「......死後の世界?」



【プロローグ】


 突然目の前に現れた巨大なスクリーンにはプロローグの文字が浮かび上がっていた。


「なんだ?!」


 プロローグの表示が切り替わり映像と音声が流れだす。


『世界はふたつに分けられた。聖族と魔族。世界の覇権を握るふたつの種族は平和を願い、戦争を終わらせるために相容れない種族を滅ぼすと決めた』


「......なんだよこれ。プロローグってゲームかよ」


 物語の成り立ちと言えばいいのだろうか、ゲームのような説明が続く。


 何かの冗談だとしか言えない。


 これはいわゆるゲーム世界へ異世界転生というものだろうか?


 異世界転生のオーソドックスなやつでは、不運な事故で命を失った者の前に神様が現れて温情を与える。

 転生者はチート能力を授かり、第2の人生を自由に謳歌する。そういう物語が多い。


 しかしそれは空想の世界の話。だって死後の世界なんて伝えられる人がいないから伝わりようがないはずだ。


 まわりの様子を見てみると、おそらく僕と同じ考えに至ったのか口元を手で隠して目をキラキラさせている人物がいる。

 視線を移してセイヤを見てみるとこちらは難しそうに眉をひそめて腕を組んでいた。


 僕は、と言うと怖くてしかたがなかった。僕は日本と言う国で生まれて育った。


 日本には猛獣と遭遇する危険もなければ、戦争もない。僕が考えるなかでとても平和な国なのだ。


 これから戦争が中心の世界に送り込まれると知って危機を感じない程バカではない。


 たしかに日本のサブカルチャーの一面はどこの国よりもファンタジーを極めてたりするかもしれないが、ゲームのキャラクターを操作するのと、自分自身がゲームの主人公になるのとは話が別だろう。


 格闘ゲームを極めた人が、空手やボクシングをやりたくなるか? いや、やりたくなることはあるかもしれないが、やることはほぼないと断言できる。

 ゲームとは体験できない世界を体験するためのモノだ。


 僕が目の前の現実と折り合いをつけれず葛藤している間にプロローグは終了を迎えつつある。



『―――1度振るわれた剣は納められることはなく、次第に大きな渦へと変わり戦禍は世界へ広がった。血塗られた歴史は始まり、今もなお続いている。世界は安息へと導く救世主を求めている―――』 



【新しい世界を生き抜くためのスキルを選択してください】

『-生き抜くための力が必要だ。スキルを選択してスタイルを確立しよう-』


「きたきたきたきたぁーー!!」

「きゃっ!? もう! びっくりさせないでよ」 

「これは異世界転生だ! 間違いない! そっか、そうなんだよ! 選ばれたんだ俺たちはっ!!」

「ちょっとあんた、何かわかったんだったら教えてよ」



 スキルの選択......。やっぱり異世界転生として認識した方がいいのか?


「マナブ、どうする?」

「どうするって言われても」


 自分の目の前に表示されているウィンドウに触れると画面が切り替わりスキルの一覧が表示された。


 これはいよいよ選択しなければいけない状況だ。


「なぁ、状況がわからねぇちょっと相談させてくれないか?」

「あ、あの私たちも仲間にいれてください」


 不安はみんな同じなんだろう、男1人と、女2人が僕達の元へ合流してきた。

 少し離れたところに画面を真剣に見つめる男が1人と、がやがや騒いでる男女のペアが居いるがひとまずは自分たちの事に集中しよう。


「ケンジだ」

「私はミライ、こっちはユナコ」

「ユナコです」


 僕とセイヤも自己紹介をして、相談を始めた。

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