ペンのインクが切れました!

江葉内斗

ペンのインクが切れました!

 男は三分以内にやらなければならないことがあった。

 それはなぜか、なぜ三分以内にやらなければならないことができたのか、その過程を今から説明する。



 男は漫画家をしていた。

 とあるコンテストで入賞してから読み切り、連載と、多くの作品を作り出し、瞬く間に人気漫画家となった天才だ。

 そんな彼だが、下積み時代から悩んでいたことがある。


 それは、ということであった!!


 どれくらい強いかというと、あまりにサボるものだから連載が二本打ち切りになってしまったくらいである。今はアシスタントの監視もあって何とか締め切り10分前くらいには原稿を仕上げていた。


 しかし今日の彼は、本日締め切りの作品を三本も控えていた。

 サボる気も失せて死ぬ気で原稿に挑んだが、残り五分になっても未だに最後の一策の原稿が完成しない。彼は遅筆でもあるのだ。

 それでも何とか完成に近づき、あと1ページ仕上げれば完成だというところまできた、その時であった。

 「……え? ……あれ!?」

 彼は大動脈に氷を入れられるような気分を味わった。

 Gペンに使うインク瓶の中は空っぽになっていた。

 「まずい……!! 早く予備を!! どこだっけ!!?」

 慌てて机の引き出し、棚の奥、ベッドの下など様々な場所を探した。しかし、予備のインクは見つからない。

 「くそっ、こうなったら……!!!」

 彼は最終手段として、普通のボールペンで原稿を書こうとした。

しかし

「な、ない!! ボールペンまでない!!! なんでだよ!!?」

 残り時間が刻一刻と迫る中、彼はゴキブリのように部屋中をはい回って探した。彼が部屋の掃除もサボっていたため、ボールペン探しは難航した。

 そうして体中が埃にまみれるまで捜索に励んだ結果、

「あ!! あった!! やったぞ!!!」

ついにボールペンを見つけることができた。

 「よし、早く原稿を……」

 いろいろとトラブルこそあったが、今回も無事原稿を完成させられる。



 そう思っていたのは、ほんの数秒のことであった。



 彼が原稿に取り掛かろうとしたその刹那、実はあったのだ。が。

 顔料インクとは別に墨汁を用意していたのだ。それを使えばよかったって? それはその通りだが、なぜか彼の目にはそれは入っていなかった。

 そして視界になければ、無意識に肘がぶつかり、墨汁瓶がこぼれて完成まじかの原稿を闇夜のごとき黒色に染まることは必然。

 彼が原稿が台無しになったのに気づいたのは、既にすべてが終わった後。

 思わず彼は石になったように固まった。


 ちらっと置時計を見る。締め切りまであと三分であった。


 残り三分で彼がやると決めたことは……



 編集部への謝罪・言い訳の言葉を考えることだった。



【ペンのインクが切れました!】:完

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